それは何色。
□29話
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温泉から帰ると、疲れからか仗助君と億泰は早々と寝てしまった。
なんの疲れかは触れないでおこう。
私も彼らの失態をいちいち掘り返すほど人間として出来ていないわけではない。
由花子と康一くんは別荘に備え付けの卓球をきゃっきゃとはしゃぎながらしていた。
なんでもいいが、康一くんの身長ではものすごい不利になるのではと横目で見ている。
空条博士は調査か何かでまた外に出ている。
私はなんとなく、夜の海を見るついでに空条博士をこっそり見に行くことにした。
別荘から出て、1分もしないうちに浜辺には出れる。
津波でも来たらこの別荘は終わりなのではないだろうか、とも思うのだが、この立地の便利さを思うと平和なうちはありがたいものである。
夜の海は静かで波の音がざらざらと響く。
真っ暗な水は昼間とは違って、すべてを飲み込むような深い深い黒だ。
「人を飲み込む、黒…か。」
独り言はその流れに吸い込まれ、水の中を霧散していく。
別に水に対してのトラウマがあるわけでもなんでもないのだが、なんだかこの水は怖いと感じた。
「一人で何してる。」
ぶっきらぼうながらも暖かみのあるその低い声はこの景色のなかで唯一温度があるものだ。
「空条博士こそ旅行中、ずっとお一人ですよ?調査って楽しいですか?」
質問を質問で返すのは目上の方に対して大変失礼なのだが、空条博士は気にしていない様子だった。
「職業病だな。楽しいかと聞かれると難しいが、嫌いではない。」
空条博士は私の隣に立つと、たばこをくわえた。
「空条博士。」
私は空条博士にこちらを向かせると背伸びして、そのたばこの反対側をはむっと加えた。
ポッキーゲームのようだが、あいにくたばこを食べる趣味はない。
空条博士は多少なりとも驚いたのかたばこを加える力を緩めた。
たばこを奪い取った私はそれを手に取り、空条博士にお返しした。
「私、たばこ嫌いなんです。」
「それは失礼したな。」
空条博士はいつも通りの表情でそのたばこをケースにしまった。
「仗助が面倒をみきれないわけだ。」
空条博士はやれやれだと呟いた。
「とんだじゃじゃ馬でしょう?」
空条博士を見つめると、空条博士は私の両方の頬をその大きな手で挟んだ。
「調子に乗るんじゃない。」
言葉こそキツいものだが、その口調は優しかった。
私は善処するわ、と告げてその手から離れた。
「子どもは寝る時間だからもう眠るわ。」
私は別荘に向かって、空条博士に背を向けた。
私は空条博士と少し打ち解けたことに手応えを感じ、慢心していたとしか言いようがない。
次の日の朝、仗助君の一言で心臓がヒヤッとしたのだ。
「あれェ〜?承太郎さん昨日の夜からどこ行ったんだ?」