それは何色。

□25話
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山寺杜王病院は山の上の西雲神社の後ろにある病院であった。




現在はその神社、病院とも、立地の問題でなくなっているはずだ。




建物はまだあるのであろうが、その神社にもう神は宿らず、病院には使用期限の切れた消毒液のツンとした匂いがするだけであるはずなのだ。






神社が荒廃するぐらいに人が登れない山をあがるには私の格好はいささか不向きであった。



履きなれたローファー、着慣れた制服とはいえ、登山に不向きであることに間違いはない。





自分としてはめずらしく、取り乱してしまったのだろうとここで自覚する。




仗助君たちと出会う前ならもっと今は落ち着いて、もしかしたら無視してたような事柄かもしれない。






「私も甘ちゃんになってきたということかしら。」





呟く顔は無表情である自覚があるが、あのリビングの血文字、その出血量を考えると冷汗が額から伝ってきた。





山に入る直前である。


もし、誰かに連絡をとるならここの公衆電話が最後である。






少しの戸惑い。





岸辺先生がさらわれたのは私のせいであることは明白である。



ここで誰かに連絡をとり、彼らを頼るのは果たして正解なのだろうか。






私はしばらく電話ボックスを見つめたが、視界から無理やりそらすように頭をぶんぶん振ると、山道へと一歩踏み出した。




それを眺める人影に気付かずに。

































山道を抜けた先に見えたのはぼろぼろに崩れた神聖であったはずの屋根瓦であった。



西雲神社である。



建物は半壊しながらもその原型をぎりぎり留めており、その後ろに立地する病院をここからはっきりと眺めるのは不可能であった。






病院の入り口に回ると、いたずら防止なのか、立ち入り禁止というテープが張られていた。






「最近誰かが出入りしてるのね。」



そのテープは人が入れるほどの隙間が開けられており、そして入り口のタイル地の床には人の靴跡がいくつも残っていた。






あの岸辺先生が簡単に捕まると思えない。



複数犯か相当の手練れと見た方がよい。






私は入り口に背を向け、建物の周りをまわる。





「見つけた。」




見つけたのは電気メーターである。



建物内の電気はどうやら通っているようである。






私はチリペッパーを喚びだした。




相手ももしかしたらチリペッパーの情報は手に入れているかもしれないが、入り口から馬鹿正直に入って岸辺先生を探すより、安全なはずだ。





チリペッパーを電気のルートに沿って操作している間に私は建物の周りをもう少し探る。




やはり敵が出入りしているのは入り口のみのようだ。





そうしているうちに岸辺先生を見つけた。



手術室で身動きを封じられているようだ。



ケガはしているが、大けがではないようだ。




どうやらあのリビングの文字はフェイントだったらしい。



少しほっとした。





岸辺先生をこのまま電線に連れて抜け出すのが正直一番私自身が安全なルートなのだが、それをすると岸辺先生が感電死するルートがはっきり見えている。




私は手術室までのルートをしっかり頭にいれた。




手術室は2F。
入り口から階段は遠い。



私は一度深呼吸をすると階段に一番近い窓を叩き割り、病院内に入る。





パリンと大きな音が響き渡ったので、敵にきっと侵入はバレただろう。






私は階段を登る。



ゆっくりしている時間はない。走って登る。






























体感5分は登り続けている。



階段の果てがなく、私は舌打ちをした。





どう考えても敵スタンドの策略にかかったとしか考えられない。


今、きっと私の精神は現実の世界を見れていない。


何故ならチリペッパーを何度か喚んでいるのに、その姿が一向にでてこないのだ。





いつから??



噴上裕也といたのはきっと現実である。


相手がわざわざ噴上裕也のような関わりの少ない相手との絡みを見せたとは思えない。




リビングの血文字。


あれも血の生々しい臭いを感じた。

リアルであった。





山に登るとき。


たくさん木にぶつかって擦り傷を負った。

その痛みもリアルだ。





神社はどうだろうか。


しかし、あの荒廃した神社で感じた神の社が廃れていたのを目の当たりにした、あの場所の空気が偽物、スタンドによるなにかだとは思いたくはない。




それに電気メーターをみたときにスタンドが呼び出せ、自由に扱えた。







「この建物に入ったとき…。」



私の右手は無傷である。


私は素手で窓ガラスを割ったのだが、それはこの右手である。





窓ガラスを素手で割って、無傷なことあるだろうか。



いや、あるにはあるのだが、あまりにもきれいすぎて疑わしい。






きっとこの病院に入った時からスタンドにとらわれている。






「この前戦ったスタンドも異世界に閉じ込められたけれど、そういうスタンドは多いのかしら。」





呆れながらに呟いた言葉だが、前回と違うことがある。



仗助君は来てくれない。





私が呼ばなかったのだから。

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