それは何色。
□22話
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花子の家、イヤ、露伴の家ってのが正しい言い方なのだが、お泊り会は今ンとこ順調である。
二人で作ったカレーは何度かダークマターと化すところだったが、なんとか食べて美味しいの範疇にもっていけた。
調理中に花子が初の共同作業ね、なんて言い出すから萌え死ぬかと思った。
かわいすぎかよ。嫁にしたい。
夕食後は片付けを終えてから、二人でボードゲームをすることになった。
露伴の家に娯楽がある想像はつかなかったのだが、人生ゲーム、チェス、将棋、オセロから始まり花札やトランプ、そしてまさかのテレビゲームまで置いてあった。
取材で買って、何度かしているようだと話す花子だったが、有名シリーズものの最新のシリーズまで置いてあるあたり取材というより趣味になりつつあるんじゃねーのかというのがオレの見解である。
花子はチェスがしたいと言ったけど、オレはルールがさっぱりで結局、モノポリーというボードゲームに落ち着いた。
わりと頭を使うゲームで、勝率は半々といった感じで白熱。
気づいたらわりと遅い時間になっていた。
「お風呂、いれてるからお客さんからどうぞ。」
花子はバスタオルを用意しながらそう言った。
「よくよく考えたら普段使ってるお風呂にオレが入るとか知ったら露伴のやつバスタブごと買い替えそうなんだけど大丈夫?」
怒り心頭の漫画家の顔を頭に浮かべながら聞くと花子はクスクス笑った。
「掃除は毎日しているし、買い替えても暮らしに不自由はないから大丈夫でしょう。」
相当えげつない住み込み家政婦である。
岸辺邸のバスタブはめちゃくちゃ広くて、快適だった。
さすがに寝るのに露伴のベッドを借りるのはマズい、というかオレが嫌なので、花子の借りている部屋に簡易ベッドを持っていくことになった。
簡易ベッドは客人用とかで改めてこの家の設備の良さに驚く。
「ピロートークとやらをしましょう。」
ベッドに入り、部屋を薄暗くした花子はいつも通り何を考えているかわからない声色だ。
「ピロートークねぇ…。」
彼女はピロートークの意味をわかっているのだろうか。
たしか男女のあれこれの後に話すことなのだが。
オレは邪推を振り払うように目をつむる。
「そういやさ、花子の部屋、すっきりしてるよな。」
さきほどベッドを運んだ際見た部屋はベッドと机、クローゼットと箪笥があっただけだった。
壁紙もカーテンも真っ白で、床はフローリング。
とんでもなく殺風景だった。
「まぁ最低限のものしか必要としていないから。」
花子とは相変わらず会話は続かない。
何かを問うと回答が返ってきて、そうかーの一言で終わってしまう。
「ところで仗助君。」
ここ最近は花子から話しかけてくれることも増えはしたのだが。
「なんだ?」
花子の顔は薄明りの中、にまにまと笑っているのが見える。
色白のその顔は美しいと不気味の中間ぐらいで、なんつーか妖艶ってのが一番似合うと思う。
「髪の毛、降ろしてる方が幼い印象ね。」
クスクス笑いながらそういう花子にオレは急に恥ずかしい気持ちになった。
そういや降ろしているのを見せたのは初めてだった。
こっぱずかしくなって花子に背を向けて眠る。
しばらくオレらは無言だったが、気まずくなって何か言おうとしたら背中の布団がまくり上げられる感覚がした。
驚いて振り返ると花子が布団にすっと入っていくところだった。
「えっ!?」
「驚いた?」
花子はたまに暗殺者のように気配がない。
布団がまくられるまで、この夜の無音の中で近づいていることさえ気づかなかった。
「どきどきする?」
妖艶な彼女は笑って、オレの頬に手を伸ばした。
彼女の笑みがゆっくりと近づいて、心臓がバクバクする。
ギュッと目をつむったが、花子の甘い吐息がある距離でぴたりと止まった。
「マズい。」
そう呟いた彼女の表情が見たくて、目をぱっちり開けると、深刻な顔をしていた。
その直後どたどたという音が聞こえて、その音は部屋の前で止まった。
ばたんとドアが開いた。
般若のような顔の岸部露伴。
「嫌な気配を感じて戻ってきたら他人の家でクソッタレ仗助といちゃついているとはいい度胸じゃないか??」
「岸辺先生、夜這いをするにはなかなかのお時間ですが?」
ゆらりと立ち上がった花子の背後にオレのスタンドが見えた。
臨戦態勢である。
夜は長そうだとオレは頭を抱えた。