それは何色。
□19話
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窓の中に引きずり込まれ、しばらく気を失っていたようで、気づくと由花子の美しい顔が目の前にあって、性別が同じ私でも思わずどきりとしてしまった。
あたりを見回してみると、奇妙な世界が広がっていた。
だまし絵を想像させる平面的な風景。
私と由花子以外の人影は一切なく、ちかちかとする蛍光色が目に悪そうな世界だった。
入ってきた窓ガラスだと思われる、白い枠の空間は外の景色を写すだけで、私の体をそこに通すことはなかった。
先ほどの出来事を思い出す。
スタンド無効化はスタンド使いの顔がわかっていないとできない。
スタンドの射程の話をするならばあの人通りのないカフェだ。
誰がやったかは限られてくるはずだ。
「とりあえずは早くここから出なきゃね…。」
出るにも方法がわからない。
由花子はしばらく目覚めそうになかった。
どうすべきか考えているとなぜか仗助君の声が聞こえる気がする。
まさか幻聴だろうか。
追い詰められたからといって仗助君の声が聞こえるなんて。
表面上だけの恋人にまさかそこまで自分は依存しているのだろうか。
未だ仗助君の幻聴はするが、そこに聞いたことがない男の声も聞き取れたため、私はふとある可能性を考え、外に繋がる白い枠を覗き込んだ。
そこには仗助君、康一君、そして知らない男が一人窓を覗き込んでいたのだ。
「仗助君!」
『花子か!?』
仗助君たちが驚いたような顔で私たちを覗き込んでいる。
「スタンド攻撃を受けてるみたいなのだけど、由花子は起きないし、私のスタンド、ドールハウスもスタンド使いの顔がわからないと使えないわ。」
『これはオレたちのスタンドで抜け出せることはなさそーだしよォ、スタンド使いを探し出してボコボコにするってのが一番有効なパターンだな…。』
仗助君は申し訳なさそうに待っててくれとつぶやいた。
『花子さん!』
仗助君の後ろから康一君が顔を覗かせる。
『由花子さん、起きないって言うけど無事なの!?』
不安そうな彼に笑いかける。
「頭を打っちゃったみたいね…。軽い脳震盪だと思う。大事はないけれど、ここを出たら病院に行きましょう。」
ほっとした康一君の顔を見ると由花子は本当に愛されていると思う。
「仗助君、探すってどうやって探すつもり?そんな何日も私と由花子は待てないわよ?」
私の問いかけには見知らぬ男が答えた。
後に私はその名を知るが、噴上裕也と言うらしい。
『オレの鼻でスタンド使いを探してやるよ。そのスタンドと同じ匂いをしたやつを探せばいーってことだろォ?』
彼は鼻が利くらしい。
まかせろと言って三人は追跡を始めた。
噴上裕也曰く、窓ガラスにこびりついている匂いは未だこの付近にいるらしい。
カフェから出ると人通りの多い広場に出た。
「アイツだ。」
噴上裕也の指さす先にはベンチがあり、つばの広い帽子を被り、サングラスをかけた女が座っていた。
見覚えはない。
「康一、エコーズでこの女の特徴を花子たちまで伝えてきてもらえるか?知ってる女なら何者か気になるし、それによォ〜、うまい事いって顔がわかるとドールハウスでスタンドから抜け出せるだろ?」
「わかったよ、仗助君!」
康一がエコーズを飛ばしたのを見届ける。
たしかカフェまで50メートル以内のはずだから伝言程度なら射程よりのはずだ。
オレは女に歩み寄る。
顔を上げる女。
にっこり笑う。
「東方仗助、貴方は私のスタンド能力がわかっているの?容易に近寄るのは危険よ?」
「なんでオレの名前知ってんのかって質問は後ででいいよなァ〜?オレの彼女閉じ込めといてタダで済むと思うなよ?」
クレイジーダイヤモンドを出そうとした。
出そうとした、のみで終わったので、オレは驚いた。
たしかにスタンドを出現させたはずなのにその姿が見えないのだ。
「私のスタンドの名はメアリー。能力は鏡や窓ガラス、水たまり、テレビの画面、現実では通れない平面とスタンドの世界を繋げることができる。」
女の出した手鏡にはクレイジーダイヤモンドのみがあの奇妙な世界に映っていた。
「もちろんスタンドのみを引き込むことが可能よ。」
手鏡のクレイジーダイヤモンドの背後に何かが映る。
顔の肥大した不細工な猫で、スタンドであることは目に取れた。
「メアリーの能力は空間を繋げることだけれど、物理攻撃もなかなか強いのよ?」
手鏡をぱたんと閉じる女は笑う。
「相手が見えないのにアナタは戦えるのかしら?」
冷汗が伝った。
万事休すかと目をきつくつむった瞬間にバゴーン!と大きな音がした。
爆風で後ろに倒れる。
思わず目を開くと、あの女はいなくて、代わりに黒い髪がうねっている風景が見えた。
「待っててくれって大口叩いたそうじゃない?情けないのね〜?」
黒髪の先にはあの女がぼろぼろの状態で気絶しており、そしてその黒髪の主は言わずもがな由花子である。
「康一君のおかげでドールハウスのスタンド無効化が効いてなんとか出れたのよ。」
大丈夫と無表情に手を差し出してくれたのは花子だった。
手を握って立ち上がる。
「これで貸し借りなしよ。」
花子はそう言って手をすっと離すと気絶した女を蹴り起こした。
うわー…容赦ねー。
「アナタ、新衣先生の彼女よね?」
蹴り起こされた女はふふふと笑って声を荒げた。
「吉良吉影が死んだからって終わったなんて思わないでね!!!!?」
オレたちはその言葉に身をかたくした。
花子は目の色を変え、女に掴みかかる。
「どういうこと?」
「まだなにも終わっていないのよ?」
女はそう言って泡を吹いて倒れた。
身体が痙攣している。
花子が口の中を探ると薬物のカプセルが出てきた。
「…どうやら彼女はこの戦いのための当て馬だったようね…。」
オレたちは黙って女を見つめる。
まだ終わっていないとはどういうことなのだろうか。
花子が小さく震えていたからオレは手を握る。
めずらしく握り返されたその手の小ささにオレは驚いた。