それは何色。
□18話
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「お前、噴上裕也じゃねぇか。」
後方からオレの名を呼ぶ声が聞こえた。
振り返ると、東方仗助が友人の康一とともに歩いていた。
「日曜日にお前一人で何してんだ?取り巻きはどーしたんだよ。」
「今日は一人で映画でも見る気分だったんだよ。」
初めて見る私服の仗助と康一に少々驚いた。
エニグマのスタンド騒動以来こいつらと会ってしゃべるのは二度目だった。
たしかこの前は康一の彼女だという由花子とかいう美人の女の子を紹介された。
この狭い杜王町だが、学校も違う知り合いに会う機会はそうそうない。
オレとしては情けない話だが、ひざびさの再開に思わず頬が緩んじまう。
「お前らこそ野郎同士で何してんだ?康一は彼女いるんじゃなかったのかよ。」
世間話程度の問いかけだったが、その質問に仗助がにやにやしながらオレも彼女が出来たんだぜ〜、なんて自慢してきやがってムカつくことこの上ない結果になってしまった。
「今度お前にも紹介するよ。オレの彼女。」
自慢気に笑う仗助にオレはため息をついた。
「そういえば裕也君、由花子さんを見てない?」
仗助ののろけを呆れ半分で聞いていたら、康一が急に会話を遮った。
「見てねーが、どうしてそんなことを聞いたんだ?」
「昨日由花子さんに聞いたんだけど、実は今日、由花子さんが仗助君の彼女の花子さんとここらで遊ぶことになってるらしくて、裕也君にも花子さんを紹介するいい機会かなぁって…。」
なかなか裕也君とは会わないからとはにかむ康一。
コイツ、意外に気が利く奴なんだよなァ〜。
「ここらにいるなら探すことはできるぜ。なんせオレの嗅覚は折り紙付きだからな。」
暇を持て余していたオレたち三人は急遽由花子を探すことになった。
意識を集中し、匂いを探る。
由花子は意外に近くにいるようで、すぐに見つかった。
なんと今いる建物の裏手から由花子の匂いがするのだ。
「近いぜ、こっちだ。」
オレの記憶が正しければ、裏手にはこじんまりとしたカフェがあったはずだ。
カフェに近づくごとに由花子の匂いは強くなる。
もう一人ツレがいるようで、そいつが仗助の彼女だろうか。
カフェに入ると、窓際の席に女性用のバッグが二つ置いてあった。
「あ、コレ、由花子さんのバッグだ。」
康一が指さしたのは二つのバッグのうちの一つであった。
「……おかしくねーか?」
不意に後ろの仗助がそう言った。
何がおかしいのかとオレと康一は仗助に視線を向ける。
「バッグだけ二つあるけどよォ、由花子と花子はどこ行ったんだ?」
「便所でも行ってるんじゃねーのか?」
「女が二人で連れションするか?それに、仮に二人とも便所ならこんな無防備に財布置いて行くかァー?」
仗助君が由花子のバッグじゃない方、つまり花子のバッグから財布を引っ張りだした。
たしかにそう言われるとおかしく感じる。
喫茶のマスターはオレたちが入ってきたことに気付かず居眠り漕いでやがる。
あきらかにおかしいと三人で黙ってしまったので、もともと静かな喫茶が余計に静かに感じた。
オレは由花子の匂いをもう少し探る。
由花子は近くにいるはずなのだ。
こんなに強く匂いがするのだから。
「…物凄くおかしなことを言うが……」
オレの言葉に仗助も康一も真剣に顔を向ける。
「由花子とそのツレの匂いがそこの窓ガラスからするんだ…。」
それを聞いた瞬間に仗助は窓に走り寄った。
そして、目を丸くする。
「花子!?由花子!?」
おそるおそる後ろから窓ガラスを覗くと、窓ガラスには反射したオレたちでも、窓の外の風景でもないものが映っていた。
まるでだまし絵のような色彩と風景の世界の中で、立っている二人の美少女がそこには映っていた。
黒髪と白髪の二人の少女はオレたちに気付いたようで、驚いた顔をしたが、白髪の美少女がこちらに駆け寄ってきた。
『私の声が聞こえるかしら…?助けて、仗助君…。』
ピンクの唇は深刻そうに言葉を紡いだ。