それは何色。

□14話
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物事をこなすために最も大事なことは目標以外の様々な物事への希望や可能性をを捨てることだと思っていた。




私の母親はスタンドという不思議な力を持っていたらしい。


らしいというのは私はその力の一切を見たことがなかった。




私を生んでから母親はその力の一切を失ってしまったらしい。



それを悲しくないのかと母に問うと、母は悲しくないわよと私の頭を撫でてくれた。


その記憶は私の中にあるのに、そのぬくもりはもう覚えていない。





昔両親と住んでいた家は今は空き家になって、ほこりっぽかった。



杜王町の小さなその家で暮らす日々はささやかであっても私の一番幸福な時代だったのだ。


その時代の名残はすでに半壊状態であと半年しないうちに取り壊される予定だったようだ。




昨日、東方青年を康一君と岸部さんに託してから一晩ここで過ごした。



岸辺さんによって真っ白にされた私の記憶は仗助君のスタンドの話や自分の衝撃的な身の上のショックで完全に思い出した。


それから私は自分のスタンドの存在に気付いて仗助君をぼこぼこにしてしまったわけだ。



私のスタンド…、他人のスタンドを操るスタンド。


今までスタンドを意図的に拒絶する力をもっている自分自身に薄々気づいてはいたのだが、まさか相手のスタンドを操る能力を無意識で使っていたなんて気づきもしなかった。




私のスタンドも子を産んだらなくなるのだろうか。



ふと母のことを思い出したが、そんなことを考える必要は自分にはないのだと思い出した。





私は東方青年を殺せなかった。


昨日、確かに殺してやろうと思ってスタンドをつかったのだ。


しかし、その思いは彼を攻撃するごとにだんだんと後悔の念へと変わっていった。




私は気づかないうちに東方青年に惹かれつつあったのかもしれない。



きっとそれは億泰にも同じで私はきっと殺せないだろう。





いつの間にこんなに毒されていたのかなんてわからないけれど不思議と嫌な気分ではなかった。



ただ、私はこれで完全に生きていく目的を失ったわけだ。





「どうせ死ぬなら母さんと父さんがいたここで死にたいもの…。」



先ほど部屋にガソリンをまき終えたところだった。




ライターは東方少年からこっそりくすねている。


何故彼がライターなんか持ち歩いているのかは知らない。


喫煙でもするのだろうか。



大ぶりなそのライターに手をかける。





死ぬことは怖くない。


けれどなんなのだろうか、この胸にあるもやもやは。





火をつけようとしたその時だった。



急に体が重くなる。


私は立っていられずにしゃがみこんだ。



ただの体調不良なんかじゃないことは床を見たら一目瞭然だった。


木製のぼろぼろの床はめきめきと異常な音を立てている。







「自殺なんて考えてんじゃねーよな?」



風が吹いた。


窓から入ってきたのは東方青年で、昨日の傷も癒えていない状態だった。




「不法侵入よ。」



「昨日花子も露伴の家不法侵入したからオアイコだろーよ、なぁ億泰。」



「オレ、花子の住所見るために先生によォ、めちゃくちゃ怒られたんだぜ〜?お礼の一つぐらい言ってくれよなァ〜。」



「億泰まできたのね…。」




スタンドを操る私のスタンドだが、射程距離は短く、スタンドを操る本体が3メートル以内にいなければならず、本体が誰であるかわかっていないといけないのが欠点だ。


この体を重くする能力が誰のスタンドかわからない今、私に手の打ちようはなかった。





「スッゲーガソリン臭いんだけどよォ、この部屋からオレらと出てクリーンな空気を吸うって確率は今ンとこ何パーセントぐらい?」



「0であってほしいわね。」



「相変わらず冷てーの。」





東方青年はいつもみたいににこにこと笑っている。


この男は昨日私にぼこぼこにされたことを覚えているのだろうか。




「花子が死ぬのって多分生きる希望がないとかそんなトコだろ?そんな理由で死なれるとオレと億泰は悲しいなァ〜ってなっちまうワケでよ。」




だからなんだと言うのだ。


もったいつけて話す東方青年に少しイライラしてきた。




「昨日、康一からよォ、花子が死んじまうかもって聞いてオレホント焦ったんだぜ〜。」




東方青年と億泰はにやにやしながら話している。




「だからなによ。」



我慢しきれず私は二人をにらみつけた。





「オレ、頭悪いからあんまりよくわかんねーんだけどよ、花子はオレらを殺そうとしてもいいじゃねーか。」



「はぁ?」




思わずすっとんきょうな声が出た。





「オレと付き合ってたり億泰と友だちでいればいつかオレらを殺せるチャンスがくるだろ?」



「今は殺せない気分なら殺せる気分になるまで待っとけばいーじゃねーかよォ?」





馬鹿だと本気で思った。


自分たちが命を狙われる前提で私と交際したり、友人でいることに彼らは何の価値を見出しているのだろう。




ふと二人の後ろにもう跡形もないぐらいに壊れた椅子を見つけた。


昔、母とスタンドの話をした椅子だった。




『昔はスタンドが大切で仕方なかったのだけど、そのうちパパと出会って、花子を産んだらスタンドなんてどうでもよくなっちゃったのよ。大切なものなんて移り変わっていくものよ。』



母はスタンドの話をした後こう言って笑っていた。




私の大切な復讐もいつかはどうでもよくなってしまうのかもしれない。



ふとそう思った。






「わかったわよ。死ぬのはやめる。」




二人の顔が輝くような笑顔になった。


何でもないはずの東方青年や億泰が殺せなくなっていたように、いつか私は心変わりしてこの二人の笑顔を大切に思うのかもしれない。





「あと、このスタンド、どうせ康一君でしょう。体が軋んで痛いからもうやめてもらってちょうだい。」




東方青年は窓の外の康一君にもうやめていいぞー、なんて叫んでいた。


どうやら5メートル先からスタンドを使っていたようで完全に私の敗けは確定していたようだ。





「そうだ、花子。」



仗助君は床から立とうとする私に手を差し出した。




「なに、仗助君。」



私はしばらく考えて彼の手をとった。





ぐっと腕が引っ張られ、急に唇にやわらかい感触の何かが触れた。





「花子のこともっと知れたらキスするって言ったなーって…。」



離れた彼は目をそらし、あいかわらず耳まで真っ赤で格好がつかない。




「仗助君。」


「んだよ…。」




きまり悪そうにこっちを見た彼の顔を手で挟んで私は背伸びをした。




「えっ!!?」



彼は目をきゅっと閉じた。




私たちの唇は触れ合うことなく、私が


「キスされると思った?」


と言うと東方青年はきまり悪そうにそっぽをむいてしまった。




「お前ら仲直りした瞬間にいちゃつくのやめろよな〜…。」


億泰はオレも彼女がほしいと悲しそうにしょげていた。






これが一連の騒動の終わりであった。



大まかに言えば、東方青年を中心とするスタンド使いの集団に田中花子という女子高生が仲間入りするという話であったわけだ。







しかし、これは終わりではなかった。



この町にまだとてつもない巨悪が潜んでいるのを私たちはまだ知る由もない。

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