それは何色。

□13話
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「スタンドの無効化…?」


僕、広瀬康一は未だ岸辺邸にいた。


先ほどまで身の毛もよだつような、ある少女の過去を聞いたばかりだった。



田中花子。

僕の友人の恋人であり、僕の恋人の友人。



そんな彼女はスタンド使いであり、彼女自身は自らのスタンド能力を気付かず使いこなしているらしい。




「スタンドを無効化されたら僕たち、どうやっても太刀打ちできないじゃないですか!」



彼女の能力はスタンドの無効化であると露伴先生から聞いたとき、本当に頭を抱えたくなった。


今までたくさんのスタンド使いと対峙し、絶体絶命だと思ったことは何度もあった。


だが、スタンドの能力自体にここまでおぞましい何かを感じたことは初めてだった。



「だから記憶を封じてスタンドとそれを使って今まで何してきたかってこと、それにつながる全部の記憶を消したんだ。いや、消したっていうほど完全じゃないけどな…僕のスタンドも途中で無効化されてしまった。」


だからクソッタレ仗助には下手に関わって記憶をほじくり返すなって釘を刺したんだがな…、と露伴先生はため息をついた。



多分仗助君にはそんなこと一切伝わっていない気がするが、というか仗助君ならそれでも田中さんの記憶戻そうとするだろうな。


僕はそんなことを考えながらも、スタンド無効化する田中さんの力をどうすべきか考えていた。



その時だった。



ドンッという破壊音と砂埃が僕たちを襲う。


しかし、次の瞬間には何事もなかったかのように視界がクリアになった。


壁はどこも壊れておらず綺麗なままだったが、いつの間に家に入ったのか人影が見えた。



「素敵なお家ですね、岸辺さん。」


その声の主はいつも由花子さんと話すときのようににこやかに笑っていた。

イヤ、違う。その目はこの世のどんなものよりも冷たかった。



「田中さん…?」



「はじめまして、康一君。アナタのことはよく由花子から聞いているわ。今回はよく見知りもしない私のために動いてくれたのよね、ありがとう。」



その言葉からはまったく感情が読めなかった。



「そして岸辺さん、よくやってくれたわね?すごく迷惑だったわ。由花子から聞く岸部露伴とアナタが同一人物って最初から気づいていればよかったわ。」


「僕のことを思い出したのか?どうやって記憶を戻したか知らないが元気そうで何よりだ。」



嫌味っぽく露伴先生は吐き捨てた。




「岸辺さんのおかげで自分がスタンド使いってわかったの。そして私のスタンドの本当の力も知れたわ。」


田中さんは嬉しそうに目を細めた。



「岸辺さんはスタンドで私の目的、知ってるんでしょう?康一君にも話したのかしら。」



もともと色白な田中さんの肌は陶器を思わせる。


まるで生き物でないようだった。




「私の目的はね、私の両親を殺したスタンド使い、吉良吉影を殺すこと…。覚えてるでしょう?吉良吉影のこと…。」



忘れるはずがない。

鈴美さんの仇で、僕は知らないが重ちーという仗助君の友人やシンデレラの彩さんを殺した男である。


奴は少し前に仗助君と戦い、最終的に救急車にひき殺されたはずだった。



「ずっと追い続けてたの…。やっと見つけたと思ったら別人に顔を変えられた…。それでもずっとずっと探し続けていたの…。」


あの戦いを見たのはたまたまだったのよ、と田中さんは笑った。


「思わず涙が出たわ…、仗助君が戦ってるとき、あの男が救急車に引かれたとき…、私の今までの人生はなんだったんだろうって、私が殺そうとした男はいとも簡単に死んでしまった…。私は復讐のために私を引き取った男に媚びを売り、お金をつくった。この町にいるハズの吉良吉影を探すため、殺すためにこの町に居続けなきゃいけなかった。でも、でもね、全部無駄だったの…。だから、私は私から復讐を奪った仗助君を、億泰を殺してやろうと思った。仗助君ったらそんなことも知らずに私に告白なんて馬鹿みたい。」


「そんな…!!」


「本当に…馬鹿…。」



田中さんはそう言って俯いた。

床にぽたぽたと透明のしずくが落ちるのが見えた。


それが涙だと気づくのに時間はかからなかった。



「私のスタンドはね…誰かのスタンドを一時的に操れるみたいなの…。さっき壁を壊したのも、直したのも彼のスタンドよ。」


田中さんはそう言って壁の隅を指さした。


そこには仗助君がもたれかかっていた。
身体はぼろぼろで、その目は開かず、まるで人形のようだった。



「仗助君!!!!」


僕は駆けだして、その息を確かめる。


確かに力強い鼓動と呼吸を感じてほっとした。




「殺せなかったのよ。馬鹿みたいでしょう?彼、私の養父を見ても何も言わないのに、私が泣いてるのを見たらすごく心配するの。私、彼に話しかけたりすることはあまりなかったし、会話も弾まなかったけれど、いつも楽しそうな顔するのよ。本当に馬鹿なのね。」



「田中さん、君は…」



「ねえ、岸辺さん、康一君、仗助君に伝えてほしい。私、青春なんて諦めてたけれど、仗助君のおかげで少し楽しかった気がする。」



「それは君が直接言えばいいじゃないか。」



田中さんは少し悲しそうに微笑んだ。



「私、誰とも今までお付き合いしたことがないから彼氏との別れ方を知らないの。」



この町から出ようと思う、そう言うと彼女は窓を開けてそこから身を乗り出した。




「待って!!仗助君は納得しないと思うんだ!!!」



「そうかもしれないわね。」



「もし…田中さんが…由花子さんや億泰君、仗助君に少しでも未練があるなら…」



「康一君、I love you.を和訳してみて?」



「え?」




田中さんは窓の枠に乗りながらこちらを見た。




「夏目漱石は、月が綺麗ですね、って訳したらしいけれど、私なら…そうね、あなたの息になりたいって訳すわね…。」



僕は困惑する。




「じゃあね、康一君。」



田中さんは華麗に駆けていった。

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