それは何色。
□11話
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「露伴先生…田中さんの記憶、どうしても戻してもらえないんですね?」
僕、広瀬康一は平日の昼になろうというこの時間に何故かとある漫画家宅にいた。
本来学校で授業を受けているはずのこの時間に僕がこんなところにいるのは億泰君からもらったメモがきっかけだった。
「僕は戻す気はない。大体康一君はあの女の知り合いなのか?」
漫画家、岸辺露伴は突然の僕の訪問に驚くこともなく、悠然とソファに腰かけていた。
「僕は直接知り合いなわけじゃないですけど、彼女は由花子さんや億泰君の友だちで、仗助君の恋人だ。」
「恋人、ね。」
露伴先生は嘲るように軽く笑った。
僕が億泰君から託されたそのメモには、仗助君からのお願いが、露伴先生を説得してくれ、なんていう無理難題が記憶喪失の田中さんの話と共に走り書きされていた。
露伴先生を説得なんて無理に決まってるじゃないか…。
正直そう思うのだが、僕の彼女の友人の記憶を思うとどうしてもいてもたってもいられない気持ちになったのだった。
ここからどうしようと頭を悩ませていると電話の音が鳴り響く。
露伴先生はちょっと失礼と断ってから電話をとるとすごく嫌そうな顔をして、僕に受話器を渡した。
「あンのクソッタレ仗助からだよ。」
僕の家の電話にかけてくるんじゃない、と理不尽極まりない文句を言いながらも僕に受話器を渡してくれるあたり、露伴先生は根っから悪い人ではないんだよなぁ。
僕は受話器を受けとる。
「仗助君?」
公衆電話から電話をかけてきたという仗助君に、やっぱり露伴先生が記憶消してるみたい、ということを伝えると仗助君は明らかに不機嫌そうに露伴先生の名前を口にした。
「そうだ、億泰君から伝言。田中さんの住所がわかったんだって。」
僕はメモにとられた住所を読み上げる。
記憶喪失の田中さんの住所を調べるという大仕事をした億泰君はその任務と途中に大きなミスを犯して、僕に住所を書いたメモを押し付けて職員室に連行されてしまった。
億泰君のことも後で助けなきゃなぁ〜。
受話器を置いて、僕は大きなため息をついた。
そして露伴先生に向き直る。
億泰君は必死にその仕事を成し遂げたのだから、僕だけが出来ませんでしたで済ますわけにはいかない。
「露伴先生、僕はスタンドで戦うことになったとしても田中さんの記憶を取り戻さなくてはいけない。」
「いい目だね、康一君。やっぱり君は僕のマンガの手本となるような正義感、誠実さの持ち主だ。それに評して記憶を戻してあげたいが、それは出来ない。」
露伴先生は先ほどの余裕を感じさせる態度ではなかった。
記憶を戻せない、そこには緊迫したなにかがあった。
「わかってくれ、康一君。あの女の記憶を戻すということは僕を、君を…この杜王町に住んでるスタンド使い全員を危険にさらすことになる……。」
「何があるっていうんですか…露伴先生…。」
僕はひとまず露伴先生から話を聞くべきだと判断した。
ごめん、仗助君。
それでも、ちょっとこの露伴先生の懸念の仕方は気になる。
露伴先生は僕をしばらく見つめた後、決心したように語りだした。
スタンドで覗いた田中さんを。