それは何色。
□7話
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最初に花子を見たとき、オレは全身の細胞が入れ替わるような感覚だった。
オレ、東方仗助の彼女である田中花子はめちゃくちゃ無愛想だ。
オレが話しかけても「えぇ」とか「そう」とかしか言わねーし、オレが黙ってても向こうから会話をふられることはまずない。
しかも笑顔っていうのをおおよそ見たことがない。
表情はあるんだ。だけど、それはオレを呆れたように見つめるか、無表情か、なに言ってるんだコイツって疑問の顔。
まぁ、由花子に向けてなら、よく笑うしよく喋るんだけどよ…。
そんな感じでオレの彼女はめちゃくちゃ無愛想だ。
そんな無愛想な花子と出会ったのは実は中学生の頃だった。
それは多分オレしか知らない。
花子はオレの中学の付近にあるスゴくきれいな女子中学校に通っていた。
初めて花子を見たのは中学校二年のまだ暑い秋の始めだった。
「仗助、知ってるか?隣の女子校にめちゃくちゃ美人がいるらしい。」
当時つるんでた男は自慢げにそう言って笑った。
「お前の言う美人って範囲広すぎなんだよなァ〜。」
中学ぐらいから自分で言うのもなんだけど、オレは急にモテ始めて、友人に仗助連れていくとウケがいいから!なんて理由でよく連れ出されていた。
最初はそれも楽しかったんだけど、なんだかオレ目当てみたいなベタベタされ具合がどうしても好きになれなくて最近は飽き飽きしていた。
「いや、今回は本当に美人だし、遊ぶんじゃなくて眺めるんだよ。」
「眺めるって…なにを?」
「登下校してる姿をだよ。」
あん時はマジで友人が何言ってるのか理解不能だった。
登下校眺めるとかストーカーか何かかよ。
とは言え、断る理由も特になくてなんとなく女子校前の道にオレは友人といた。
その道はオレらの通う学校の通り道でもあった。
「仗助!あれだよ!あの子!!」
「叩くなよ、いってェな…。」
友人が指差す方向を見たとき、俺は固まった。
指差す先には女の子が数人歩いていたのだが、誰を指しているのかすぐにわかった。
誰とも群れることなく、一人で凛と歩くその姿にほの暗い孤独と奇妙な魅力を感じた。
そして目を引いたのはその髪だった。
彼女の髪は真っ白だったのだ。
「ヤベェだろ?」
友人に返事することも出来ないぐらいに意識は彼女に奪われていた。
「田中花子って言うんだってよ。」
「え、日本人なのか!?」
遠目にみた彼女は明らかに外国人の血を感じた。
オレもハーフだからなんとなくわかる、なんていうか、雰囲気がそうだった。
「お前もハーフだけど日本人の名前だろーが。」
「それもそうだな…。」
これがオレが初めて花子を認識した瞬間だった。
そして、オレはそれから何度も登下校する花子を眺めに行った。
話しかけることはしなかった。
彼女の纏う高貴な雰囲気とか幻想的なオーラが話しかけることをオレに躊躇わせた。
要するにオレにとって花子は女神とか天使とか、実際に触れ合うことのない何かに近かったのだと思う。
とは言え、当時絶賛お年頃のオレは花子を神聖視しながらも何度もズリネタに使ったし、いや、本当に救いようのないんだが、風で少しでも花子のスカートが捲れた日なんかめちゃくちゃ上機嫌だった。
まさかそんなオレの中学時代の女神であり、思春期の汚点のきっかけである彼女が同じ高校、同じクラスになるなんて。
今は席替えしたから席は離ればなれなんだけど、入学当初、実はオレたちの机は隣同士だった。
花子はオレのこと認識すらしてなかったかもしれねーけど、オレは中学時代オカズにしてましたって女が隣にいる緊張とか申し訳なさでマジで授業どころじゃなかった。
結局、それでもオレはそのときはまだ花子と付き合いたいなんて思うことはなくて、ただのクラスメイトとしてオレの女神を眺めていようと心に決めていた。
あのときまでは。
そう、あのとき。
新聞紙を一日飾って、もう皆には忘れられているのであろう。
でも、オレは、オレたちは忘れることがない。
吉良の野郎との最終決戦となったあの日。
億泰が倒れて目をあけなかった、
吉良のスタンドで攻撃された、
もしかしたらオレは死ぬのかもしれないと思った、
あのとき、オレは確かに見た。
花子がオレたちのいる向かい側の道に立って、オレたちを見つめて泣いていた。
泣きじゃくるわけでもなくて、ただ呆然と立って涙をぽろぽろと流していた。
そのとき、オレはそれが見た幻覚か何かだと思ったわけだけど、でも、オレはそれを見たから、花子の涙を止めようと思ってもうひと踏ん張りできた。
吉良を倒して、あの道を見るとやっぱり花子はいなくて、死にかけて好きな女の幻覚を都合よく見る自分自身に笑った。
まぁ、花子がオレたち見て泣いてるとこなんて想像できねーし。
でも、どうしてもその光景は生々しくオレの頭に残って、結局オレは花子に告白した。
理由はもうコイツのこと、幻覚であっても泣かせたくねーなって思ったから。
オレが幸せにしたいと心から思ったから。
でもさ、オレの見た泣いてる花子は本当に幻覚だったのか?
花子と付き合って、花子のことを知ろうとすればするほど、花子はオレを遠ざけて、孤独になろうとする。
その孤独さはどうしてかあの泣いてる花子を思い出させる。
それに、
『あのね…!仗助君、私、実は…あの日、仗助君が爆発事故に巻き込まれた日に…』
あの日の花子は爆発事故に巻き込まれたオレの話をしようとしていた。
「花子…お前何を知ってんだよ…。」
オレの独り言は誰に聞かれることもなく夏の空気に霧散した。