それは何色。

□4話
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静かな杜王町にも人が集まり、騒々しいスポットはいくつかある。


先日、東方青年、虹村億泰と向かったカフェはその一つであった。


そして、この駅前広場も比較的大型のショッピングセンターやデパートが立ち並び、にぎわうスポットとなっている。



「あっついなぁ…。」


夏の日差しが容赦なく照り付ける屋外はコンクリートが溶けそうなほどに暑かった。


先日、東方青年とデートしようと約束し、二人で映画を観ることになった。

駅前広場に昼の一時半に集合と言われたが、少々早めに出たので十五分前に集合場所についた。


しかし、

「仗助君、もう着いてたの?」


集合場所にはもう既に東方青年が明らかにそわそわしながら待っていた。


その服装はいつもの改造制服と違い、ラフでカジュアルなファッションだ。



「花子、私服もかわいい。」


挨拶もそこそこにいつもの人懐っこい笑顔で東方青年は私に歩み寄った。


「仗助君もいつもと雰囲気違うね。あと…」


ちょっと屈んで、とお願いすると東方青年は不思議そうな顔をしてしゃがみこんだ。

その特徴的な頭に私は手をすっと乗せた。


太陽の熱を吸ったその黒い髪はとても熱かった。



「頭、熱いね。待たせちゃってごめんね?」


彼は頭をばっと上げた。
彼の頬がピンク色なのは暑さのせいだけではない気がする。


「オレが早かっただけだからいーの!」


東方青年は立ち上がり、そして私の手を握る。



「今日は何の映画を観るの?」


「花子は何か観たいのある?」


「なんでもいいわよ。」




映画館までの道のり、東方青年は私の手を離すことはなく、彼の頭を照らす太陽がとても眩しくて、歩く地面は暑かった。































「にゃん助大戦争〜宇宙を滅ぼす猫猫団!〜……明らかにB級っぽいけどこれでいいの?」


映画館で東方青年と映画を決めていたのだが、東方青年が提示してきた映画は意外なことににゃん助というキャラが宇宙海賊団と戦う、といった内容のハートフルアニメーションだった。



「いや、オレも大して興味があるワケじゃーねェんだけどよ…。」


「私は本当になんでもいいけれど、今流行ってる話題の映画だったらこっちの映画よ。」



私の指さす方向には今話題の小説実写化の映画のポスターが貼ってあった。

なんでも、絶対に泣けると話題の切ないラブストーリーらしい。



「なんつーか、花子ってなんか映画とかで感動して泣かなそうだけどよ…」


「失礼ね。私も感動はするわ。泣かないけれど。」


「泣かないだろォ?でも、オレ、こういうの泣いちまうからさ…。」



決まり悪そうに東方青年は頬を掻いた。



「別に悪いことじゃないわよ、それ。むしろ何を遠慮してるの?」


「おふくろに男は女の前で泣かないもんだって昔から言われてんの。」


「えらくしっかりされたお母さまね。」




まだ見ぬ東方青年の母に感心する。


噂で東方青年は父がおらず、母と二人暮らしだと聞いたことがある。

そんな家庭環境だからこそ彼の母はしっかりされたのかと勝手に思いを巡らせた。



「別に泣いてもいいわよ。」


「オレが嫌だっつーの。」


「むしろ見たい。」


「何だよそれ!?」



知らないうちに私はにやにやと意地の悪い笑みを浮かべていたようだ。


東方青年は両目を閉じてうーんとしばらく悩んでから、片目だけを開けて私を見つめた。



「花子が由花子との会話以外で何かに興味持つの初めて見た。」


「そんなに私、物事に興味なさそうなの?」


「スゲーなさそう。」



東方青年は自らの頬を両手でバシリと叩くと、わかったよと頷いた。


「今回だけな。」


きまり悪そうに感動ラブストーリーのチケットを買う彼に私はにやにやが抑えれなかった。



「チケット代払うよ。いくら?」


「いいよ、オレがデート誘ったんだし。」


「じゃあ映画の後にカフェにでも行こう。そこは私が誘ったから私の奢りね。」



にこりと笑って先へ先へと劇場を歩く私の手を東方青年は、かなわねーよな、ホント、なんて言って捕まえた。


映画は話題通り、というには少し物足りない内容だったのだが、隣で号泣している東方青年を見ることができたので良しとする。


そのあとはカフェで東方青年と映画の感想などを話した。




「仗助君、お母さまとの約束破っちゃったわね。」


「今日はもういーの!次からは泣かねーから。」


ウチ、シングルマザーってのもあって結構厳しいんだよなァとぼやく東方青年。



「そーいや、花子の家族ってどんな感じ?」



急にされた質問の返しに少しとまどう。



「どんなって言われてもな…。」


「兄弟はいるのかとか、こんな性格の母ちゃんがいるとか、教えてくれよ。」


東方青年はニコッと笑う。



「一人っ子よ。親は…母は小学校のときに他界したわ。父は健在よ。」


「あ…なんかわりー…。」


「気をつかわなくていいわ。仗助君もお母さましかおられないんでしょう?」


「まぁ、父親…っつーのかな?生きてはいるんだよなァ…。」



私が首をかしげると、東方青年は自分の生い立ちや、父が外国人で、母と不倫の関係にあったこと、そして、最近その父と初めて対面したことを語ってくれた。



「フクザツだけど、オレはそれでもフツーの家庭に暮らしてて、おふくろもフツーのおふくろなんだよ。」


「フツーっていうには仗助君ってなかなか目立つわよ。」



そういいながらもなんだか彼をつくるひとつひとつのエピソードと今の彼に納得してしまった。



「花子は今はオヤジさんと二人暮らしなのか?」


「うーん…ちょっと違うかも…。」



東方青年のエピソードを散々聞いておきながら、私は私の何も彼に語ろうとはしなかった。



「事情があって一人で暮らしてるの。でも、なにも問題ないわ。」






























デートから帰ったらくたくただった。


映画に行って、カフェで長話しただけなのだが、今までの人生で一番エネルギーを使った日なのではないかと思った。

そうだと私は思い立って家の電話が置いてる場所に向かう。


受話器をとると、かけなれた番号に繋げる。



「もしもし、由花子?今日、私、仗助君とデートしたの。……ええ?それだけよ。それだけを言うためにあなたに電話したの。おかしいわよね。……うん、それじゃあ、また月曜日に。」



受話器を置いた。


ふと今日一日のことを思い出すと笑みがこぼれた。



楽しかった。


そう思った瞬間に我に返る。

私は東方青年に何の好意も抱いていないのだ。



「どうせ、付き合ったのも、単なる暇つぶしだしね…。」



口からこぼれた言葉に返事を返してくれる彼はここにはいない。

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