それは何色。
□3話
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「気をつけなさいよ、花子。最近、女子高生を騙して違法なアルバイトをさせる悪い業者がいるらしいわよ。」
昼休憩、友人である山岸由花子と昼食を食べていたら、由花子がこんな話を始めた。
昨夜、由花子宅付近で違法に営業していたクラブが取り締まりを受けたらしい。
そのクラブでは女子高生が薬物の受け渡しの仲介をさせられていたり、その肉体の売買などが日常茶飯事で行われていたらしい。
「アナタ、基本はしっかりしているけど、どこか抜けてるっていうか自分の安全に対してのガードが甘いっていうか、とりあえず不安なところがあるからキチンとしなさい。」
「由花子は手厳しいなぁ。」
返す言葉もない。
実際、ストリップしながら歌うなんて馬鹿げたバイトをしてるのだ。
これが由花子にバレたら由花子はどんな顔をして、何を私に言うのだろうか。
怒って頬をぶつかもしれない。
呆れて何も言わないかもしれない。
絶交されるかもしれない。
この高校にきて、唯一仲良くしたいと思ったのが由花子だった。
見た目の麗しさはとても口に出して表現できるものではないし、頭もよい。
そして何より彼女は盲目的に康一君が好きだった。
誰かを盲目的に好きになれる、なんて自分にはできないことだと思う。
だからこそ私はそれをいとも簡単にやってのける由花子と一緒にいたいと願ったのだった。
「何を考えてるの。」
ふと意識を由花子に戻すと、そのきれいな瞳が私を写していた。
「どうせいつもみたいに私は由花子の綺麗さにはかなわない、なんてバカみたいなこと考えてたんでしょう?」
もう入学当時から聞き飽きたわ、と由花子はお手製のサンドイッチを口に運ぶ。
それだけで上品に見える由花子に眩暈がした。
「実際かなわないわよ。由花子ったら一つ一つの動作が魅力的だもの。」
「私からしたら花子の方がよっぽど綺麗に見えるわ。魅力も感じる。ただ、すごく危うさを感じる魅力だけどね。」
「危うさって?」
私は焼きそばパンに手をつけた。
基本的に私の昼食は由花子の栄養たっぷりのお弁当と違って、購買のパンだ。
「なんていうか、自暴自棄になってる感じよ。自分のこと大切にしてないって感じ。アナタって生活に困ったら何も思わずに売春とかしそう。」
昼から重い単語だなぁ、と思わず焼きそばパンと口に入れるのをやめた。
聡い由花子にはそのうち私のバイトのこともバレそうだと心の中で苦笑いした。
「アナタが放課後に何してるか敢えて聞いてないけど、彼氏が出来たんならデートの一つ二つしたらどう?」
前言撤回。もうバレてる。
少なくとも何かしらのあやしいバイトをしているのはもう彼女にはお見通しらしい。
「っていうか、由花子に付き合ってること言ったっけ?」
「言ってないわよ。アナタ、自分のこと話さないじゃない。」
じゃあどうして、と言いかけてやめた。
由花子の視線の先にはここ数日で見慣れてしまった特徴的な髪形の彼が笑顔で手を振っていた。
「残りは康一君と食べるから花子も学内デート楽しんで。」
由花子はすっと荷物をまとめ、立ち上がり、どこかへ行ってしまった。
由花子が先ほどまで座っていたところに東方青年が座る。
「オレ、もしかして邪魔だった…?」
由花子がいなくなったことで私の顔はそうとう険しいものになっていたらしい。
「正直由花子とガールズトークしてたかったわね。」
「それはごめん…。」
「仗助君、いつからいたの?」
「ん?由花子がデートの一つや二つしたらどうだって言ったとき。」
そう言って東方青年は私の顔色をうかがう。
よかった、私のバイトのところは聞かれてなったようだ。
別にバレて別れることになるのは問題ないのだが、さすがにその噂が出回るとここから3年弱の高校生活が苦行にしかならない。
ふと東方青年の顔を見るとにこにこしながらこちらを見ていた。
「なに?」
「んー…、花子って明後日の土曜日暇?」
「予定はないけど何?」
流れでわかんねーかな、と東方青年は苦笑いした。
「デート…しねーか?」
どうやら由花子は非常に厄介な置き土産をしてくれたようだ。