それは何色。

□2話
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「お前、仗助の彼女だよなァ?」


今日の放課後は図書委員会の集会があった。

私、田中花子は図書委員である。

去年まではそんなに集まって話すこともない委員会だったのらしいが、今年から赴任された図書館司書の先生は今までにない熱血タイプの先生だったようで今年からは二週に一度、放課後に集まって会議を行っている。


よくもそんなに議題が尽きないものだと半ば呆れ気味に会議に参加していた私にこっそり声をかけてきたのは長身の男だった。


この会議に参加しているということはこの男も図書委員会なのだろう。

しかし、二週に一度の会議でこの男を見たのは初めてだった。


不思議そうな私の視線に感づいたのか男はにやりと笑った。



「オレ、虹村億泰ってんだ。」


「あぁ、由花子の友だちね。」


最も親しい友人、山岸由花子との会話によく出てくる名前BEST3に入るであろう、虹村億泰。

たしか先日お付き合いとやらを始めた東方青年の友人でもあったのではないだろうか。



東方青年は入学時からその見た目も、言動も、話題に事欠かない人間だったので顔を知っていたが、虹村億泰の顔を知ったのは今が初めてだった。



「お前の彼氏の仗助とも親友だぜェ。」


「東方君のご近所さんだっけ?東方君、昨日そんな話をしてた気がするわ。」



会議中なのでこそこそと二人で話す。

内容のよくわからない会議より、こうして隣人と話す方がよっぽど有意義であるのではないだろうかとふと思った。



「付き合ってるのに苗字で呼んでんのか、仗助のことをよォ〜。」


「まだ付き合って5日よ。そもそも話したことすらなかったもの。」


時計を確認する。あと15分程度で終わりそうだなと算段を付けた。



「そーなのかァ?仗助のやつ、だいぶ前から花子のこと好きだって言ってたからてっきり昔から知ってるような仲だと思ってたぜ〜。」


「それは初耳ね。東方君とは高校で初めて出会ったし、クラスメイトとしか認識してなかったわ。」



少なくとも私はそうだった。

東方青年がいつから私に好意を抱いたのか私は知らない。

理由だって聞いてない。


つまりは私は東方青年について何も知らないし、少なくとも興味がないから聞いていないのだろう。



「……どうせすぐ別れるだろうし。」


「なんか言ったかァ?」


「いいえ、独り言よ。」



会議もちょうどお開きになったようだ。






























「で、なんで億泰、お前が田中さんと一緒にいるワケなんだよ。」


カフェ・ドゥ・マゴのテーブルには東方青年、虹村億泰、私の三人がいた。



「仗助の彼女がよォ、俺と同じナントカ委員って聞いたからたまには委員会ってのに行ってみるかァって思ったんだよなァ〜。」


委員会の後、帰ろうと下足室に向かうと東方青年がちゃっかり私を待っていた。

一緒に帰りたくてよ、とはにかむ彼に虹村億泰が茶々を入れた結果がこの三人でカフェのテーブルを囲む、という奇妙な構図を生み出した。



「億泰に変なことされてねーよな、田中さん。なんかされたら俺に言えよ。」


「なにもされてはいないけれど、東方君がかなり前から私のこと好きって言ってた、とは聞いた。」



冷たいカフェオレを飲みながら私がそう告げると東方青年は顔を真っ赤にして虹村億泰をにらみつけた。



「億泰…テメェ……」


「そんなこともう言ってんのかと思ってたからよォ〜。」



見れば見るほどにこの構図に違和感しか感じれない私はカフェオレを飲みながら黙って二人を眺めていた。


東方青年は私といるよりも虹村億泰といるときの方が会話も多く、楽しそうであるのに何故私とお付き合いを、いや、それ以前に何故私に好意を抱いたかが全くもってわからなかった。



「花子はどう思う?」


「え?」


虹村億泰に話しかけられたが、急なことで全く聞いていなかった。


「ごめん、聞いてなかったからもう一度言ってくれる?」


「ちょっと待て。」


会話を遮ったのは東方青年であった。


「億泰、田中さんのこと勝手に名前で呼ぶんじゃねェ!!」


「別に減るモンじゃねーからいいだろうが、なぁ、花子。」


「オレでもまだ名前で呼んでねーのに!!」



なんだその理由は。

すごく馬鹿らしい理由で虹村億泰の名前呼びを嫌がる東方青年が私にはよくわからなかった。




「別に東方君も私のこと名前で呼べば解決じゃないの、それ?」



私の言葉に東方青年がバッとこちらを向いた。



「いいのか…?」


「別にいいけど。」



むしろ何が嫌だと思っていたのだろうか。



「じゃ、じゃあさ!俺のことも仗助って呼んでくれる?」


東方青年の顔は真っ赤だった。

前回のハグしたい、と言った時も思ったが、東方青年はなんというか、顔に似合わず初心だ。



「仗助君って呼べばいいの?」


「お、おう…。」


「わかった。」



東方青年は一度息を大きく吸ってから、



「花子……。」


と、聞こえるか聞こえないかというぐらいの小さな声で私を呼んだ。



「なに、仗助君。」



私が返事をすると彼は顔をもっと赤くして


「マジでグレート……。」


とテーブルに突っ伏した。





「じゃあ、俺のことも億泰って呼んでくれよな!」



「ふざけんじゃねーぞ億泰!!」



テーブルから顔を上げて虹村億泰を睨む彼の顔はもう元の肌色だった。





どうやら私の無関心とは対照的に、東方青年が私のことが相当に好きらしい。

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