一個旅団兵士長と月の輪
□降り月(くだりづき)9
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アイシャ「リヴァイ…………………………。」
溢れ出る涙が、頬を伝う。
リヴァイの脳裏に地下街での出来事が思い出された。
(イサベル)『殺…………す。 殺して………やる。』
アイシャの冷たく震える手が、掴み上げるリヴァイの手に触れる。
リヴァイは、ゆっくりと力を緩めた。
力無く、床に座り込み涙を押し殺すアイシャ。
その手を優しく取ると、鍵を握らせた。
あの頃であれば、すぐに相手を殺しに行けた。
しかし、そう簡単に出来なくなった立ち位置にいる不自由さに、苛立ちを覚えた。
リヴァイはこうなることを知っていたのだ。
エルヴィンにそう諭されたからだった。
しかし、実際に犠牲になったアイシャを目の前にすると、秘める殺意が膨れ上がっていく。
何処まで自分を抑えきれるか分からない程だった。
その衝動をぶつけるように、アイシャの体を抱き寄せた。
リヴァイの温かな唇が、重なる。
後ろ頭を抱えられ、リヴァイの舌先が押し入った時だった。
ドクンっと、鼓動を打つように熱線がアイシャの背に突き刺さった。
甘くとろける、液体がアイシャの中に注がれ、急激な高揚が湧いてきた。
すぐに頭を侵食していく、波打つその衝動。
―――――――――――――――違う!!!!
自分の身体でない反応に、アイシャの頭が拒絶反応を起こし、リヴァイの体を突き飛ばした。
拒否されたことに、驚くリヴァイ。
拒否したことに、驚きを隠せないアイシャ。
アイシャ「違うの………………私…………私は…………」
混乱しているアイシャは頭を抱え、小刻みに震えていた。
リヴァイは、ふと、視線の先を窓に移すと、エルヴィンと先程の秘書がこちらに歩いて向かっているところが見えた。
リヴァイ「エルヴィンだ。」
その言葉に、抱え込んだ手を離すアイシャ。
二人は、馬車を降り、二人を出迎えた。
リヴァイ「随分、早い会議じゃねーか?」
リヴァイの声に無反応の二人。
エルヴィンもレオンも神妙な面持ちで、立ち尽くした。
エルヴィンはアイシャを見た。
アイシャの握られている拳が、震えてる。
エルヴィンは奥歯を噛み締めレオンに鋭い目線を送った。
エルヴィン「やはり、今すぐにでもアイシャを私の元に置きたい。」
レオン「言ったはずだ。それはできない。俺の元に置いておく。」
リヴァイ「あ?何言ってるんだ。テメェら。」
3人の男の目線が激しく交差した。
リヴァイの後ろから困惑の表情でそれを見つめるアイシャ。
緊迫した妙な空気が辺りを包んだ。