一個旅団兵士長と月の輪
□弄月(ろうげつ)8
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階段の遥か下から、風が吹き込んでくる。
不思議と風は夜の香りがした。
階段を降りきると目を疑う光景が広がっていた。
固い煉瓦で円形に囲われた広い敷地。
そこには、月の光を浴びて、紫色に光を放つ妖艶な花が咲き乱れていた。
吹き抜けになった上には、夜空と星たちが伺える。そこから、夜の風が入り込んでいたのだ。
そよ風に吹かれる、紫の花。一寸先は見えないほど暗闇だというのに、個々に光を発して揺れ動いている。
目の前の、あまりに浮世離れした幻想的な世界に息を飲んでしまう。
アイシャ「な、、何て綺麗なの……………。」
ゲルハルト「この景色を是非君に見てもらいたくてね。どうだい?日頃の疲れなんて吹っ飛んでしまうほど美しいだろ?この花達は紫蚪(しと)って言うんだ。」
アイシャ「しと?」
ゲルハルト「そう。紫蚪。この花の美しさに僕は魅了されてしまってね。ここに、秘密裏に育てているんだよ。どうだい?気に入って貰えたかな?」
不思議と見れば見るほど吸い込まれそうになる。この花の美しさに取り込まれそうだ。
言葉がでなくなるほど、見いっているアイシャに、ゲルハルトは満足気にする。
ゲルハルト「この壁のなかに現存している古代種の花。それに、とある品種の薔薇を掛け合わせて作ったものだよ。」
アイシャ「薔薇?」
そのとき、ミサの脳裏にさっき口にした飲み物が浮かんだ。
ゲルハルト「そうそう。さっき口にした飲み物はこの紫蚪の根からとったエキスと紅茶を混ぜたものだよ。」
アイシャ「!!!?」
目の前の景色が滲む。頭の中が靄がかったようになり、手先が痺れてきた。
同時に身体を突き上げるような、高揚感が走る。
アイシャ「な、、何なの……………これ!?」
からだの先から触れる気流の変化でさえ、鋭くなった身体の感覚が敏感に捉えてしまう。
アイシャ「ああぁぁあ……………!!」
ガクガクと震える足が力なくその場で崩れ落ちた。
ゲルハルト「本当に素敵な花だろう。この花は!まるで、君そのものじゃないか!妖艶で美しい………この紫蚪根のエキスは、本当に君そのものなんだよ!!誰もが虜になるんだ!!」
そういい放ったゲルハルトは、無理矢理アイシャを押し倒した。
その衝撃に目眩がする。
ゲルハルトの指先が身体をなぞっていく。
その指先に遊ばれるように身体が反応する。
頭では、抵抗したいのに、波打つような高揚感と身体がその感覚を欲してしまう。
ゲルハルトはアイシャのブラウスを引き破った。