一個旅団兵士長と月の輪
□忌み月(いみづき)7
2ページ/10ページ
壁外調査前日、全ての荷物をまとめたアイシャは、大きく息を吸い込み訓練場を小高い丘の上から見下ろしていた。
隣には大きな大木。
別れを知ってか知らずか、そよ風に葉を揺らしながらアイシャのとなりに佇んでいた。
何か心に不安があるときはいつもこの樹木の葉音に癒されてきた。
もう、それすら許されない場所に望むのだ。
刹那の感情が溢れる。
アイシャ「明日、皆壁外に行くのか………どうか、皆無事に帰ってきて。」
呟く…………………。
そこに、少し強く風が吹く。………アレックスがやって来た。
アレックス「随分、探したぞ。こんなところで何してるんだ?」
アイシャ「アレックスこそ。明日から壁外だよね?もう、用意はいいの?打ち合わせは?」
質問するアイシャの間近に歩み寄る。
アイシャの体が大木へと押しやられる。
アレックスは、左手を大木へと押しあて、アイシャを見下ろした。
あまりの近さに、恥ずかしくなり顔を背けるアイシャ。
アレックス「もし、壁外調査で俺が死んでも、俺のこと忘れないでくれな。」
アレックスは優しくアイシャを見つめた。
アイシャ「…………そんな!………そんな、縁起でもないことっ!!?」
アレックスの唇がアイシャの唇を塞いだ。
時が止まる………………
驚いたアイシャはアレックスの体を押し離す。
アイシャ「何を……………」
アイシャの声が震える。
アレックス「もう二度と、会えないような気がするんだ。いきなりでスマナイ。でも、後悔したくない。」
そう言うと、アレックスは再び唇を寄せてきた。
抵抗することはできるのに…………そう、思いながらもアイシャの身体は、動かなかった。
唇の先から、アレックスの哀しみの感情が伝わる。
割り入るアレックスの甘い液体はアイシャの唇から漏れでた。
アレックスは唇を離すとアイシャを強く抱き締めた。
アイシャは訓練兵だった頃を思い出した。
そう言えば、アレックスは何時も自分を助けてくれていた。見守ってくれていた。それなのに、私は、アレックスの気持ちに答えてあげることはなかった。
アレックスのアイシャを思う気持ちが痛いほど伝わる。
罪悪感で一杯になる。
アレックス「お前がリヴァイ兵長のこと好きなのは知ってる。なのにごめんな。」
優しくアイシャの頭を撫でると、アレックスはその場から立ち去った。
虚しい風が通り抜ける……………。
アイシャがその場に経たり混み泣き崩れる姿を、
遠く離れた窓辺からリヴァイは複雑な面持ちで見守っていた。