一個旅団兵士長と月の輪
□上弦の月2
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エルヴィン「ウォール・マリアを没落させ人類は領土の3分の1を失った。巨人に怯える人類に残されたのは『英知』の力。恐怖に竦む人類に再起を促すのは『勇気』の力。恐怖という鎖を断ち切って、今、我々は知勇を携え立ち向かう。戦いなくして生はなし。 抗いなくして勝利なしだ。」
ハンジ「まったく、力無いものは、残酷にも切り離されるしがない世の中だよ。
…………ま、今回新兵が多かったのには他にも理由があったみたいだけどねっ。噂だけど、99期生の中にとびきりの美少女がいて、彼女のことを想う淡い恋心を滲ませる純粋な子達が彼女を追って調査兵団に入団したらしいよー(笑)」
リヴァイ「あ?くだらねー。そんな不純な動機で入っても、巨人の餌になって命取りが関の山だ。そんなことで、命捨てるんじゃ割りが合わねぇ。」
ミケが離れたところからフンっと鼻をならして口の横で笑う。
ハンジ「いいじゃないの〜、なんの色のない世界よりも青春は若者の専売特許でしょー………リヴァイも若い頃はそこそこ女の子に……グシャグシャ…」
リヴァイはハンジの口のなかに紙切れを放り込むと、表情変えず部屋を出ていった。
その夜、調査報告書の大量の書類に囲まれ自室でリヴァイが筆を走らせていた。
時刻は深夜を回り、時計の針の音だけが響く。
一息入れようと紅茶を片手に窓の方に向いた。
訓練場の手前は小高い丘になっている。そこにそびえる一本の大木。
月明かりに照らされる大木は風に葉を揺らしながら、怪しげな雰囲気を出していた。
ふと目をやると、その大木に向かっていく、一つの光が見えた。小さな光は大木の麓につくと不自然に見えなくなる。
リヴァイは、ティーカップを机に置くと、そのまま自室を出ていった。
小高い丘の上。一本の大木の下、心地よい風が吹きぬける。名月は一人佇むアイシャを照らし出していた。
雲一つない空に銀の雨粒をバラ蒔いたように星々が輝く。明かりがなくても周りがよく見えるほどの良夜。
アイシャは、その場で足を抱えて座り込むと、片手に小さな小枝を取り両手で、パキッと、折った。
全身に鳥肌が立つ。
人間は、巨人に喰われるとき、枯れ木を折るような音がする。
否応なしに、親友が喰われていく姿が目に浮かぶ。止めどない涙が溢れ出す。
高く上がった月をどんなに見つめても、その月が見えなくなるほど溢れてくる。
ポケットから、洗い立ての白いハンカチを出すと涙をぬぐう。
アイシャ「あーぁ、せっかく洗ったのに。」