一個旅団兵士長と月の輪

□降り月(くだりづき)9
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アレックスも今痛みと闘っている。

そして多くの命がまた失われたんだ。

それに比べれば、自分の置かれている立場等、ちっぽけに思える。

調査兵団であり続ける限り、常に死と隣り合わせの人生。当たり前に感じる命が、意図も容易く消えていく世界。

それに比べれば、私の置かれてる立場など――――――。

リヴァイ「お前の方はどうなんだ?奴に何かされてねぇだろうな?」

リヴァイの問いかけに時が止まる…………………。

言えない。
言えるわけがない。

複雑な表情を浮かべ、リヴァイの問い掛けに答えきれないでいると、

リヴァイ「散々な目にあってるんじゃねぇか?」

更に、質問を被せてきた。

忌々しい映像が頭のなかを旋回していく。

リヴァイの腕から離れ、向かいに座り直す。

アイシャ「いえ……………。」

俯いたまま、心に蓋を被せた。
口から出た嘘が、更に自身を追い込んだ。

心の声が悲鳴を上げる。

『お願い!!助けて!!!!―――――――――』

その声を押し殺すように、唇を強く噛んだ。

アイシャ「あの……………、作戦失敗だったってことは、巨人の捕獲も出来なかったんですよね?」

無理にでも話を変えたかった。

リヴァイ「あ?そうだな。手前の順路確保だけは出来たが、それくらいじゃ何の意味もねぇ。巨人の捕獲の方まで手を回していたら、それ以上の犠牲が出ただろうな。」

リヴァイはジッとこちらを伺っている。

その視線に、何かを悟られそうで、アイシャは目線を合わせられなかった。

リヴァイは眉を潜める。

沈黙の時間が流れた。
心から愛しいと思う人が目の前にいるのに、重苦しい空気がのし掛かった。



リヴァイは、スーツの内ポケットに手を差し込むと、あるものを取り出した。

リヴァイの部屋の鍵だった。

リヴァイ「これはお前に渡したものだ。俺のいない間に、机の上に置いてあったが。何の真似だ?」

アイシャ「!!!?……………あの………スミマセン。もう、会えないかも知れないと思って。」

アイシャの目線が泳ぐ。

リヴァイ「あ?」

リヴァイは突然アイシャの胸ぐらを片手で掴んだ。

男の力のままに引っ張られ、座っている腰が引きずり下ろされた。

リヴァイ「おい!こっちを見ろ!!」

狭い馬車内に緊張が走る。

リヴァイ「いいか?俺に二言はねぇぞ!何を隠してる言え!!何故、俺の目を見ない!?」

アイシャは、無理矢理リヴァイに目線を合わす。
堪えきれないものが、内側から押し溢れてきた。
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