一個旅団兵士長と月の輪
□弄月(ろうげつ)8
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昼間、レオンの話しを聞いて、ゲルハルトへの見る目が少し変わったような気がしたが、本人を目の前にすると、やはりいけ好かない。
ゲルハルト「慣れない仕事でお疲れのようだね〜。レオン君の仕事が浮いて彼がさぞかし喜んだだろう。初日の感想はどうだい??」
ゲルハルトの嫌みな質問に、返す気も失せるが堪える。
アイシャ「特に…………問題ありませんでした。」
ゲルハルトはクスッと笑いながら甘い香りのする飲み物を淹れだした。
ゲルハルト「まだまだ、固いなぁ君は。根付いた兵士口調がそのまま出てる。まぁ、いい。こちらに来て掛けたまえ。」
目の前のテーブルに飲み物を置かれた。
ゲルハルトと迎え会わせに座る。
ゲルハルト「僕のお気に入りのハーブティだよ。とても高価なもので、なかなか手に入らない。庶民には馴染みのない代物だよ。お口に合えばいいんだけどね〜。」
甘い香りと湯気が立ち上るカップ。
フワリと薫る紅茶のような香りに、リヴァイの顔が横切る。
手に取り、一口飲んでみる。
薔薇のような香りと、紅茶のような芳醇な渋み。喉の奥を通る頃には口のなかにほんのり甘さが残る。
その味わいに、つい声が漏れでる。
アイシャ「美味しい!」
ゲルハルトが、口の横で微笑む。
ゲルハルト「ま、どうあがいてもこんな高級品は調査兵団で味わうことは出来ないね。君は、本当に運がいい。僕に感謝してね。」
そのハーブティの余韻を味わうことなく、ゲルハルトの言葉に、微細な怒りがこみ上げた。
なにも言わずに、ハーブティを飲み干すと、その場を立つ。
アイシャ「他に用事がないなら、失礼します。ご馳走さまでした。」
去ろうとするアイシャにゲルハルトも席を立つ。
ゲルハルト「まだ、話は終わってない。これからが本番だよ。君に見せたいものがあるんだ。」
そう言うと、本棚に向かって歩き出した。
なにかを探すように無数の本の背をなぞる。
その姿を、後ろから眺めるアイシャ。
何かか、カチッと音をならした。
その音と共に、本棚がギシギシと音をならしながら動いていく。
隠し扉――――――。
目の前の光景に唖然となる。
ゲルハルトは目の前に出てきた重厚な扉に鍵を差し込むと、勢いよく押し開けた。
暗く長い階段が遥か下へと連なっている。
固まっているアイシャを尻目に
ゲルハルト「付いて来たまえ。」
一言発して降りていく。
怪しむが、興味を抱いたアイシャは、言われるまま暗い階段の方へと脚を運んだ。
長く暗い階段。