一個旅団兵士長と月の輪
□月影(げつえい)6
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走り続けたミサは、エルヴィンの部屋の前に行き着いた。
ドアをノックし
「アイシャ・アンネローゼです。失礼します!」
と、言うと、扉を開いた。
そこには、見慣れない服装の人物が複数人。
エルヴィンに目をやるが、エルヴィンはばつが悪そうな表情をした。
アイシャ「スミマセン!客人が来られていたんですね!失礼します……」
執務室を後にしようとしたとき、後ろ向きに座っていた男が振り返る。
「イヤ〜。そちらから、会いに来てくださるとは思わなかったよー!!色々、手間が省けて嬉しい限りだ!!」
聞き覚えのある声と、振り返った顔を見てミサは凍り付いた。
アイシャ「ゲルハルト…………シュナイダー。」
固まっているアイシャの方に、歩み寄ってくる。
ゲルハルト「覚えててくれて光栄。今、貴方のお話をしていたところなんですよ。ねー、エルヴィン団長。」
ゲルハルトはアイシャの顔を舐め回すようにながめる。右手の人差し指でアイシャの耳の前に垂れる前髪をクルクルと触ってきた。
虫酸が走る……………………。
アイシャは、訳がわからないまま、エルヴィン団長の方に目線を飛ばす。
エルヴィン「立ち話も何だ。座ってくれ。」
ゲルハルトは不適な笑みを浮かべている。
訳がわからないまま、アイシャは、中央のテーブルに向かいゲルハルトの向かいに座る。
エルヴィンは執筆席を離れると、アイシャの隣に座りなおした。
エルヴィンが口を開く。
エルヴィン「次の壁外調査の日程が決まった。今から2週間後だ。」
アイシャは、その言葉に少し目を丸くするが、覚悟を決めたように軽く頷いた。
エルヴィン「今回も莫大な資金提供をこちらのゲルハルト伯爵にしてもらう予定だが、それにはいくつか条件がある。
一つは、また巨人の捕獲作戦を組み込むこと。
もう一つが、アイシャ。君を兵団から退いてもらい、ゲルハルトの側近として、彼の屋敷で働くこと。この二つだ。」
アイシャは、あまりの衝撃に椅子から立ち上がった。
アイシャ「私が…………兵団を退く……………って!?」
訳がわからないまま、エルヴィンを見つめる。
エルヴィンは、まっすぐ、ゲルハルトを見ている。
ゲルハルト「そうそう。君は次の調査には参加しなくてよくなったんだよ。私のところに来れば、とてもいい好条件で働かせてやるし、壁外に出て命を落とす心配もない。
一石二鳥じゃない。どうかな〜。こんないい話ないと思うよ。」
ゲルハルトはアイシャをジッと見て笑っていた。