一個旅団兵士長と月の輪
□忌み月(いみづき)7
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ゲルハルト「君の母親の存在が全てを狂わせたんだよ。わかるかい?本来なら僕は、君に復讐だってし兼ねない立場だ。
でも、そんなことしない。寛大な心で君を受け入れる。」
そう言うと、ゲルハルトの唇がアイシャの唇に押しあてられる。
強引に割り入る液体は、淀んだ空気と同じ葉巻の味がした。
堪らず、押し退ける。
アイシャ「私の母は、集う民衆の前にさらされ処刑された!!死を持って、十分に罪は償った!
私は私だ!ホフマン家とはなんの関わりもない!」
突き飛ばされた、ゲルハルトが高らかに笑いだす。
ゲルハルト「そうだね。君には何の罪もない。でも、本当に君の母親を死に追いやったのは、誰のせいなんだ?
君と言う存在のせいなんじゃないかな!?」
その瞬間、過去の記憶が甦る。
アイシャの脳裏に焼き付いて離れなかった記憶。毎晩、続けられた屈辱。人間に突き刺さる刃物の衝撃。生温い血のヌルッとした感触。母の涙。
身体が震えだす。恐い――――――。
ゲルハルト「君と言う存在事態が罪なんだよ。しかし、僕は、それを咎めない。君の罪を受け入れ、赦す。
君も、そのうち僕を受け入れるだろう。僕と言う存在が有りがたくて仕方なくなる。君から僕を欲してくるようになる。」
不適な笑みを浮かべるゲルハルトに、何も言い出せない。
まさか、この男は知っているのかも知れない。
闇に捨て去った真実を。
震える身体が、何を恐怖してるのか混乱してわからない。
ただ、大きな闇の力という陰謀に飲み込まれそうになっている。それだけはわかった。
ゲルハルト「まぁ、ここに来たからには、タダで君を置いとくつもりもないからね。君にはちゃんと僕の側近として働いてもらうよ。
ついて来たまえ。」
そう言うと、ゲルハルトは書斎の重厚な扉をあけ、歩き出した。
言われるまま、進む。
屋敷の一角の扉を開くと、中には沢山の書物と書類が積まれた部屋があった。
広い部屋の真ん中に置かれた、豪華な彫刻が施された机。それに座っていた男がゲルハルトの姿を見て立ち上がる。
ゲルハルト「彼は、この屋敷の住人で僕の片腕として秘書をやっている。先ずは彼の仕事の補佐から始めてくれたまえ。
レオン・マイアー君、彼女が先日から話していた、アイシャ・アンネローゼだ。」
ゆっくり歩いて近づいてくる、緩い曲線を描く髪をきっちり整えた紳士の装いの凛々しい男性。
レオン「初めまして。秘書のレオン・マイアーです。宜しく頼むよ。」