一個旅団兵士長と月の輪
□忌み月(いみづき)7
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母を形容する言葉に、絶句する。
ゲルハルト「本当に、美しい。その名に相応しい容姿だ。差し詰め、君の存在は僕のこの屋敷に似つかわしい限りだね。」
ゲルハルトはニタニタ笑いながら、近寄ってくる。
アイシャの耳元に唇を寄せてきた。
ゲルハルト「本当に、1000の男を虜にした魔性の女ユウナ・アンネローゼそっくりだなぁ。」
淀んだ空気がたちどころに鋭利なアイシャの目線に張り詰める。
ゲルハルト「まさか、魔女の子がまだ、生きていたなんてね。もうどこかでのたれ死んでいるとばかり思ってたよ。」
この男は自分のことを何処まで調べたのだろう。そう思いながらも、口を開いた。
アイシャ「私を、どうするおつもりですか?」
それを聞いてゲルハルトはフフっと鼻先で笑った。
ゲルハルト「君は、君の意思と関係なくここに連れてこられ、無理矢理働かせれる被害者だ。そう、勘違いしてるんじゃないのかな?」
鋭く見つめながらも、何を訳がわからないことを言っているんだろう……と、疑問に満ちた顔が浮かぶ。
ゲルハルト「逆に、僕の方が被害者なんだよ。僕の叔母に当たる人の名前をご存じかな??」
アイシャ「……………………」
ゲルハルト「リリス・ホフマン。」
アイシャ「!!!?」
アイシャの中で、稲妻に似た衝撃が走る。
二度と耳にすることのなかったであろう名前……………。
あまりの衝撃にたじろぎ、後ずさむかかとが、背にした扉に音をたてて当たる。
そんなアイシャに追い討ちをかけるようにゲルハルトはアイシャの頭上に片腕を置き距離を詰める。
ゲルハルトの指先が、アイシャの顎を持上げる。
ゲルハルト「僕の叔母に当たる、リリス・ホフマンは君の義父ルイス・ホフマンに殺された。勿論、この事実は、闇の向こうへと揉み消されたんだけどね。
何故、叔母は殺されたと思う?
ルイス・ホフマンが君の母親、ユウナ・アンネローゼと既婚する目的、その為だったんだよ。」
凍り付く、アイシャの頬をゲルハルトの指先がなぞる。
ゲルハルト「だから、僕もホフマン家の被害者なんだ。君と同じね。
君の母親が居なければ僕の叔母が殺されることはなかった。だが、しかし………
君の母親がホフマンを殺してくれたときは本当にせいせいしたよ。
だから、僕は、君に恩返しをしたんだ。もう、命をかけて壁の外に出ることもない。不味い飯を喰うこともない。僕は、君の命の恩人なんだよ。」
ゲルハルトの唇が、じわじわとアイシャの唇に寄せられた。