一個旅団兵士長と月の輪

□忌み月(いみづき)7
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別れの時間が来た。


アイシャは、エルヴィンに挨拶を済ませると執務室を後にした。

神妙な雰囲気のなか、ハンジやミケに見送られた。

もう、振り返らない。振り返ると…………決心が鈍ってしまう。
だから、もう、振り返らない。

一歩また一歩、前だけを見つめ前進した。

兵門を出ると、、

「おい。」

聞き覚えのある声に、アイシャの足が止まった。

心を掻き乱す声。真っ直ぐ見つめ固まっているアイシャの瞳に涙が滲む。

お願い…………引き止めないで――――――。

心の中の叫びは、外に発することなく、只、奥歯を噛み締める力へと変わっていく。

腕をグッと引き寄せる力。
その力が二人の身体を密着させ、抱き締められた。

フワリと香る、愛しい馨り。

堪らず、抱き締め返した。

悲哀に染まった声が漏れでる。

その声を掻き消すように、強く強く抱き締め合う。

二人の姿を黙認した数人の門兵達は、驚いた様子で気を利かせ、姿を消した。

アイシャ「リヴァイッ……!!………」

心の底から漏れ出す声が、悲しみをより一層助長させる。

リヴァイは、涙に濡れるアイシャの顎を片手で持ち上げると、優しく唇を重ねた。

リヴァイ「俺は生きて帰る。そしてお前を必ず迎えに行く。お前も強く生きろ。いいな。」

リヴァイはそう言い残すと、ゆっくりと離れその場から立ち去って行った。

アイシャは、過ぎ去っていくその温もりを追うことが出来ない。

刹那の感情に完全に圧し潰され、満身創痍の身体が小刻みに震える。

涙で見えない視界を、取り払うこともできず、取り憑かれたように、重たい足を前に運ばせた。


哀しみの別れから一夜が過ぎた。

エルヴィン「第二回、壁外調査を開始する!!前進せよ!!」

エルヴィンの力強い掛け声と共にトロスト区の壁門が開かれた。

兵士たちの強い意志のもと、壁外へとそれぞれの思いを乗せた馬が駆け出した。


その頃………………ウォール・シーナ内、王都中心街、狭い王都内の中でも広大な面積を占める、ゲルハルトの屋敷。

そこにアイシャは降り立った。

敷地内に入るとすぐに使いの者がやって来て、屋敷の中を案内した。

言われるまま、ゲルハルトの書斎に通される。

使いはノックをすると、アイシャを中に入れ立ち去った。

薄暗い書斎に正面の窓ガラスから光が射し込み、逆光で前が良くみえない。

細めるアイシャの目が慣れて来ると、そこには忌々しい男の姿があった。

ゲルハルト「やぁ〜。アイシャ・アンネローゼ。薔薇の聖女。」
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