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「なまえ!!」



立体機動の訓練中、アンカーを刺した木が腐食していた事によりなまえが落下した。
一瞬は肝を冷やしたがうまく受身をとったようで見た限り切り傷や擦過傷は多いものこれといった大きな傷は見当たらず大事には至らなかったようだ。


「なまえ!大丈夫!?」


「ん。問題ない」


「あるわよ!傷だらけじゃない!すぐに医務室いきましょ!」


「大げさ」


同じ班であり仲の良いぺトラの心配を他所に涼しい顔であちこちについた葉や土を払い落とす。
いくら大きな傷はないとはいえ痛くないわけじゃないだろうに。顔をしかめるどころか眉のひとつも動かさないのだから痛覚に異常でもあるのだろうかとリヴァイは少々の不安を覚えた。


「もう!兵長からもいってやってください!」


説得を聞き入れようとせず、何事もなかったかのように訓練へと戻ろうとするなまえにペトラが擁護を求める。


「なまえ、今すぐ医務室に行け」


「何故ですか?問題ないと先程申し上げた筈ですが」


「お前は女だろう。傷が残るぞ」


「…」


「女」という言葉に表情こそ変えないもの、ほんのわずか一瞬なまえを包む空気が鋭くなった。


「それが何だというのですか?そんなものを一々気にしてるようじゃ巨人と戦うなど無理な話だと思いますが」


「おいなまえ!お前上官に向かってそんな態度が許されると思ってんがぺぇ!」


「医務室はアンタが行けば」



なまえはいつでもそうだ。
愛想笑いや社交辞令といったものは皆無、いつ、どこで、何をしていても常に無表情。その上頑固で一度決めた事は上官命令であろうと絶対に曲げない。中には冷徹、魔女、などと彼女を恐れる者もいる程。
オルオの言う事も一理ある。だがそれを咎める事をしないのはなまえは幾度となく共に死線を潜り抜けてきた信頼に足る部下であり、仲間であるから。
そして何より、兵士としての誇りを持つ彼女を気に入っていたから。

現にさっきの空気。実はわかっていたのだ。なまえが女だからといって甘やかされるのを嫌う事を。
あえてそうしたのは気まぐれに好奇心をくすぐられたから。鉄仮面を貼り付けたような彼女が表情を変える所を見てみたかった。単にそれだけ。
もっともそれは叶わなかったのだけれど。



「いいからとっとと行けグズ野朗。小さな傷が脅威になることだってある」


「こんなもの舐めておけば治ります」



まだいうか。野生動物かお前は。そんな言葉が頭に過ぎると同時にリヴァイはある事を思いついた。



「おい。なまえ」


「なん…」


「舐めときゃ治るんだろ?」


腕を掴み、手の甲の傷にぺろりと舌を這わせる。
一度沸いた好奇心はなかなか冷めないものだ。
まぁこの程度で取り乱すような女ではないのは重々承知なのだけれど。
あまりにも言うことを聞かないのでただの嫌がらせを。そんな風に思っての行動だった。

しかし予想なんてものは時に大きく外れる事がある訳で。




「!」


「え!?」


「んなっ…」


「ちょ、」


「マジかよ…」


リヴァイを含めるその場にいた人間全てが驚愕したのは無理なかった。

何事にも動じないなまえが、鉄仮面を貼り付けたようななまえが大きく目を見開き、顔を真っ赤に染めているのだから。



「や、やっぱり医務室行ってきます」


顔を腕で多い、その場から逃げるようにして走り去っていくなまえの背中を驚きのあまり面々はただ見送る事しかできなかった。
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