book

□same
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盗み、殺し、売春、生きるためにはどんな事でもやった。

報復に脅え、いつ訪れるやも知れない死に恐怖する毎日。それでも生にしがみつく様は酷く滑稽だった事だろう。

顔すら知らない親を恨んだ。


なぜこんなにも惨めな生活を強いられなけらばならないのか。


そんな絶望の日々。


だがそんな先の見えない闇の中に唐突に光が射した。

金色の髪、吸い込まれそうになる蒼い瞳。自由の翼の紋章。

彼は言った。「私と来ないか?」と。


それがわたしとエルヴィンの出会いだった。



彼は孤独の中からわたしを拾い上げ居場所を与えてくれた。


地上に出てからは暖かい食事、暖かい寝床が当たり前になった。
今までじゃ考えられないような環境に戸惑っていたしなかなか警戒心を解く事ができなくて随分困らせてしまった事もあるだろう。でも彼はそんなわたしを一度だって咎める事も無理強いする事もなかった。


ある日の夜、地下街での出来事を夢に見た。

罵声、悲鳴、陵辱、痛み、ありとあらゆるものが頭の中で鮮明に蘇り体が震える。
ただ泣き叫ぶ事しかできないわたしをエルヴィンは優しく抱きしめ一晩中背を撫で続けてくれた。
その時知った。人の温もりというものを。

次第にわたしの心は解けていきエルヴィンを慕うようになり彼に恩返しをしたい、彼の役にたちたい、そんな思いを抱くようになる。

わたしにできる事はなんだろうか。導き出した答えはエルヴィンの元で働く事、調査兵団に入団する事。


それからはただがむしゃらに血反吐を吐きながら訓練に励む毎日。でもそれを苦だと思う事はなかった。
やがて訓練兵を卒業し、時は流れ願いが叶う。


幸せだった。


だからこそわたしはあの男が嫌いで仕方なかった。
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