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□無効と移動@
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「マジで何がしたいんだ…」

アキラは目の前の自分より10も年下の少年を見た。
まだ声変わりもしていない、幼くかわいい、守るべき存在であるはずの目の前の生き物は、いかにも腹黒そうな笑みを浮かべた。


「いくらテレポーターのアキラでも逃げらんないよね。アキラを捕まえられんの、世界でおれだけかもね」

目の前の少年は、公園でサッカーでもしていそうな表情で言う。表情だけは公園でサッカーだが、言っていることは地獄で打ち首くらいの差がある。

馬鹿でかい本部の廊下の端、追い詰められた青年はアキラと言う。能力はテレポートで、見える範囲でならどこへでも自分や自分以外の人間、者も、飛ばすことができる。
だから厄介な時にはすぐに逃げられるし、アキラはこの能力が気に入っていた。のだが、なぜかこの少年にの前ではこのお気に入りの能力が使えない。
アキラを追い詰めた少年の名は、I.Qと言うらしい。本名かどうかはわからない。能力はアンチサイといって、特殊能力を無効化できる能力なのだそうだ。




よって、アキラはこの少年から逃げることができなかった。







ー無効と移動







「おっほアキラァ!なんだよ、また年下に捕まったのかよwwうけるんですけど」

少し遠くから自室が隣同時のライアン・シークレットが声をかけてきた。

「ライアン!もしろん助けてくれたりは…」

「しねぇよ!!そいつアンチ・サイなんだろ?今手を貸して逃げられたとしてもまたすぐお前は捕まる!!ww」

「ですよね…」

ご近所さんにも助けてもらえずアキラは目の前の少年を見る。

「何が望みなんだよ…」

アキラは面倒そうに少年に話しかける。

「ちょっとおれと遊んで欲しいだけだよ。ここに保護されてから暇なんだよね」

この少年の親の顔が見てみたいものだ。なぜ10歳やそこらの少年がこんなにも腹黒そうな顔ができるのだろう。


「別にいいけど…なにして遊びたいんだ?」

アキラは警戒心丸出しで尋ねる。ただ遊んで欲しいだけの無邪気な子供が、自分より10も上の青年を廊下の端に追い詰めて、こんな性格の悪そうな顔をするわけないのだ。裏があるに決まってる。



「ん〜、そうだなあ…」






「アキラの部屋で、ゲーム」









「アキラめっちゃ強いんだね」

「そりゃ俺のゲームだし…お前も強いと思うよ」

何時間もゲームで対戦するうちに、初めの警戒心は薄れ、なぜか普通に会話をする仲になってしまった。
アキラは大のテレビゲーム好きなので、まあ当然の結果である。これも少年の計算である事に、すっかり警戒心が解けてしまったアキラが気づく様子はない。

「てかアキラいつまでおれのことお前って呼ぶつもり?」

「え…?あれ俺お前って呼んでる?」

「読んでるよ、おれの名前知らない?」

「知ってる…、I.Qだろ。I.Qって本名なのか?」

「…いや…」

アキラは聞いてしまって、少し後悔した。少年が困ったような苦笑を浮かべたからだ。いくら始めは腹黒いやつだと思っていたとはいえ、まだ10歳だ。話したくない事も多くあるんだろう。

「あ、悪い、深く踏み込み過ぎたな。」

「いや!そんなことないよ、アキラには別に知られて嫌なこともない。」

少年はパッと顔を上げて年相応の笑顔を見せた。

「だけど…俺の親、俺が小さい時に死んで…本名がわかんないんだよね。I.Qは、おれが育った施設での呼び番号だよ」

「…番号」

親の顔が見てみたいなどと言ってしまったが、なるほど少年は結構な辛い人生を送ってきたのだと知る。

「もう!アキラが別にそんな顔しなくても、おれは施設に感謝してるし、随分良くしてもらったんだよ。番号も、おれにとってはもう名前として愛着あるし」

「ああ、うん。お前、…じゃ、なくてI.Qがそう言うなら。でももっと我儘いっていいからな。なんならゲームも好きなの貸してやるし」

I.Qはアキラの目元を隠す長い前髪の間から見えた思いの外綺麗な二重の群青の瞳を見て、

「ありがと」

と年相応の笑顔を見せた。









「アキラァ!今日泊まってもいいー?」

「あー…うん、別にいいけど」

いつのまにか週に何度かはI.Qはアキラの部屋に泊まりに来るようになっていた。

「アキラ、アキラ、今日泡風呂の元持ってきたっ」

「なつい、泡風呂かあ」

「アキラ、一緒に入ろうよ」

「あーうん、別にいいけど」

「じゃあさっさとご飯食べちゃおうぜ!」

今では会話も普通にできるようになり、最初の警戒心が嘘のように無くなった。





だから油断、していたんだ。






「アキラ、泡風呂できたよ!」

「…ふぁ、まじで?ごめん寝てたわ…」

「ほんとだよ、おれ10歳なんですけど。なんて立派な10歳なんだ」

「ああ、ほんとありがとな」

「いいよ、泊めてもらってるし!ほらはやく行こう!」


パタパタ先にシャワールームへ走っていったI.Qの後を追おうとして立ち上がろうと足に力を入れると、


「…あっ?」


足に力が入りにくい。
ソファで寝て、足がしびれたか、でもそんな鍛え方してないけどなー

考えながら風呂場へ行くと、シャワールームからはもうシャワーの音が聞こえていた。

「アキラきた?もうはやくー」

「はいはい」


服を脱ぎ、ジーンズ、パンツを少し下げたところで手が止まる。

あ?

勃…



アキラがパンツから飛びでた自分のムスコの状態に気づいた瞬間、



ガラガラ!

シャワールームのドアが開いた。

「アキラまだあ?…あ、」

「…!」




数秒間の沈黙が流れる。



「い、いいいいやこれは、なんでかよくわからないのですが、でも決してお前と風呂に入るからこうなったとかじゃなくてですね、その、」

「アキラ、落ち着きなよ」


アキラの慌てぶりにキャラ壊れてるよ、とI.Qが声をかける。

「まあ…よくわかんないけどいいから早くおいでよ」

10歳の少年に手首を引かれてアキラはシャワールームへ入った。







「アキラ、全然治んないね?」

「…なんでだろう」

頭を洗い終わって一向に収まる気配のない直立不動の馬鹿ムスコにアキラは頭を抱えた。

「あ!!わかったひやせばいいんじゃない?」

「ひ、ひやす?」

突然の天才少年のぶっとんだ考えにアキラはかたまる。
これは冷やせば萎えるものだったか?
いや、でも確かに、逆上せたのか、熱くてふわふわしてきた気がするし、冷たすぎれば萎えるものかもしれない。

「冷やしてみる?」

少年の好奇心旺盛そうな大きな白っぽい銀色の瞳がアキラを見上げる。

「あー…うん、治りそうならなんでも…」

「じゃあやってみるね!アキラ椅子座って!」

「はい」




落ち着いて考えればI.Qにやってもらわずとも自分でやれば良いが、今のアキラではそこまで考えは回らない。


「じゃあやるよ、冷たすぎたり痛かったり、何か変化があったら、すぐ言ってよ?」

「あー…うん…」

「どんなちっちゃいことでもちゃんと言ってね!なんかあったら大変だから!アキラ、わかった?…アキラ?」

「ああ、わかった…」

「じゃあやるね」


ジャーーーッと、勢いよくシャワーが出る音がして、一度I.Qの手のひらに当られ、温度と水圧を調節されたシャワーがゆっくり近づいてきて、


「い゛?!あっなに、冷たいッあ゛あッ!」

「はあっ、シャワーだよ…冷やしてるの、アキラ、大丈夫?強すぎ?」


「つよすぎぃ!つよい゛ッからぁ、あ、あ、あ゛こわい゛ッ!こわい゛ぃ゛!」

「ご、ごめん!」

なきだしそうなアキラの様子を見て、I.Qはシャワーを弱めた。

「ーーーーーーーッ!ーーッ!ーーーーーッ!」

だが、もう遅く、ビュルビュルと液体が飛びでた。さらに達した後も続いたシャワーの刺激にアキラは涙を流す。


「ーーーッ…ッ!」

こらえきれずアキラが漏らす様子をI.Qは静かに少しの間眺めてから、シャワーを止めた。


「ごめんアキラッ大丈夫?」

「うっ…だいじょ、ぶじゃない…」

I.Qはぐずぐず涙を流すアキラの頭を撫でた。

「ごめん…恥ずかしかったよね?おれ誰にも言わないから大丈夫だよ…ごめんね…?」

「…ぅっ…く…ふぇ」

「アキラ、アキラ、もう泣かないで…?」

I.Qは一向に泣き止まず、子供のように涙を流すアキラを見て、いじめすぎたかと少し後悔した。しかしいつもはポーカーフェイスと言われているアキラの困った顔や感じた顔、泣き顔、どれを取ってもかわいかったし、一生に一度レベルの世界1かわいいアキラを見れたんだから満足なのだが。

「あっ!ごめ、ん…俺、こんな、キモいよな…?」

アキラが我に返ったように急に目元を拭い、I.Qに撫でられていた頭を起こした。

「キモいことないよ、おれはアキラの新しい面をしてれ嬉しいのに。アキラすっごく可愛かった」

「あ…、I.Qお前も、」

「アキラ見てたら、興奮した。アキラえっちすぎ…」

I.Qは熱のこもった瞳でアキラを見つめると、アキラと自分の熱をまとめて握り、先端にシャワーを当てた。




「はっあ、あっ、これ、ヤバイ、アキラ、ん、アキラ、アキラっ、すき、アキラ、アキラきもちい?」

「ーーッ、あ゛っ、んう、ん゛!ん、あっ、きもちい…I.Qっ!」

「ーーーーっはあッ!!ヤバい、えろいアキラッ!もっと俺の名前呼んでよ…ッ!アキラ、アキラぁ
ッ、」

「んっ、んん、ぁっI.Q…ッ!I.Q…ッ!I.Q!」

「っかわいい、アキラッすき、アキラ、すきだよ、アキラ…アキラッ!」


「ーーーーーーーッ!ーッ!ーッ!ーーッ!」

















「ごめんアキラ、無理させちゃった」

「I.Q…おまえ、晩飯に何か薬…入れたろ…」

「なんだ…ばれちゃってたんだ…。アキラ、ずるいことしてごめん…」

「もうすんなよ…」

「うん…ごめんなさい」



やっぱりI.Qは警戒必要だったんだなーとぼんやり考えながら天井を見ていると、I.Qは隣でモゾモゾ布団の中で向きを変えて向こうを向いた。


「………………………アキラ、」

「んー…?」

「おれのこと軽蔑した?」

「いや…別に」

これはアキラの本心だった。別に軽蔑なんてしてない。不思議だけど。別に痛いことされたわけでもひどいことされたわけでもないし。やること大胆すぎて将来が心配だけど、捻くれてるとこがあるだけで、本当は素直なとこもあるやつだって分かってるし…
ただそれよりも気になったのは


「そう」

平然を装ってるみたいだけど、ほんの微かに震えたI.Qの声。

「………I.Q、…なに泣いてんの」

「……」

泣いてないけど、って返事が来ると思ったのに。予想よりも余裕がないらしい。
布団に少し潜ってI.Qのほうを見ると、微かに小刻みに震えるまだ幼い肩が見えた。

「俺、軽蔑してないって答えたよな?」

なぜ泣いているのかわからず、もしかして先ほどのI.Qの質問に答え間違えたのかと思って質問する。
するとI.Qは先ほどと変わらない平然を装ったような微かに震えた声で

「アキラの言い方冷たかった」

と言った。
そう言われては途端にアキラは焦る。

「まっ、待てよ、俺の話し方っていつも冷たい傾向にあるだろ?本当に軽蔑なんてしてない」

ちびっこを泣かせてしまったとアキラは焦ったが、すぐにI.Qは見た目は子供、中身は大人キャラだから大丈夫かなと思った。

「おれ…アキラに嫌われたとおもった。もう一緒にゲームとかできなくなるとおもった。でもそういう別れ的なの、今までも何回も経験したことだしまあ、最初は寂しくても、またすぐ慣れると思って。」

I.Qは小さな声で言った。アキラは静かに聞いた。

「でも、なんか気になって、おれのこと軽蔑してる?って聞いちゃった…どんな返事期待してたのか自分でもわかんない。でもアキラの言い方、冷たかったから…。たしかにアキラ、基本いつも冷たい話し方だけど、いつもの何倍も冷たく聞こえて、…そしたら、おれ、ああ、もうほんとに一生一緒に遊べないし、部屋にも入れてもらえないし、もうアキラに話しかけてももらえないんだって思ったら…おれ、なんであんな最低なことしたんだろって、おも、って…」

そこまで言ってI.Qは話すのをやめた。やめたというか、話せなくなったんだと、アキラには分かった。だってグ、と嗚咽を押し殺すような声が漏れたのが聞こえたし、方が一層震えてたから。

「I.Q、俺、まじで軽蔑してないし、俺もお前と会えなくなるのはやだよ」

「そ、それに…」

アキラはI.Qの震える背中に続けて話しかける。

「お前に触られんのも、別にいやじゃ、なかった…」



そこまで言うと、I.Qがぱっとこちらを振りかえった。涙でぐずぐずの顔は、年相応だった。

「それ、 …ほ、ほんとかよ…」

I.Qはクシャっと涙で顔をゆがめて聞いた。

「うん、本当。おまえと気持ちいことすんの…別に嫌いじゃない」

「じゃあ、おれのこと抱きしめてよ…!」

I.Qが泣きながら半ば叫ぶように言った。

「えっ、いま?」

「やならいい」

ぐずぐずの I.Qがまだ強がるから可愛くおもえて、



望み通り、力一杯抱きしめてやった。

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