another world(短編)
□駆け引き
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来訪者は、静かに扉を閉めると、足音を立てずに、執務机の前まで来て、紙の書類から離れた場所にカップを置いた。
「スカルキャップです」
アンジェリカが、普段より幾分低い、落ち着いた声で囁いた。
「気持ちを鎮める効果があります。少し苦味がありますが、もし宜しければ」
「......他の奴らはどうしている?」
マルチェロはカップを手に取り、訊ねた。
「ククールとヤンガスは、ドニの酒場へ。ゼシカとエイトは、アルバート家と関わり合いのある人を頼るために、船着場へ行きました」
アンジェリカの答えを聞き、マルチェロは深い息を吐いた。
「......疲れた」
「本当に申し訳御座いません。私たちが迂闊だったばっかりにーー」
「いや、一番悪いのは盗人だ」
そう答え、マルチェロはカップを手に取った。珍しいお茶を口にし、顔をしかめた。
「苦いな」
「良薬口に苦しと言いますから、効果はあるはずです。......私に何か出来る仕事があれば、お手伝致します」
「では、地下牢へ行ってくれ。牢の一室に、旧修道院跡地から移した本がある。処分するものと、写本すべきものとを分けてくれ。采配はお前に任せる」
「畏まりました」
アンジェリカが頭を下げ、踵を返した瞬間。