大切なモノ

□大乱闘
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「例の情報屋の家ってのが、ここなんですが、情報屋のダンナ、どうやら留守の様でがすね」

やっと辿り着いた扉の前で、ヤンガスは肩を落とした。ヤンガスだけではない。全員が思わず溜息を溢してしまった。

これで、ドルマゲスの情報を得られるアテが、無くなってしまった。オディロ院長を殺した後、あの不気味な道化師がどう動いたのか、誰にも見当が付かなかった。

「仕方ないでがす。一旦おっさんのいる酒場に戻って、どうするか考えるでがすよ」

ヤンガスの提案に、全員が頷くより他に無かった。重い足を引きずる様にして、来た道を戻る。

先ほど騒ぎを起こした裏通りに差し掛かり、皆緊張したが、恐れをなしたのか、声を掛けたり、近付いて来る者は一人もいなかった。

街で一番大きな宿屋の隣のアーチを潜ると、そこに薄汚れた酒場の入り口と、この場に不似合いな美しい白い馬の姿が見えた。

酒場の中は、外よりもっと荒れ果てていた。割れた瓶が床に散乱し、飛び散った酒の臭いが鼻を突く。

「ドニの酒場のアレを思い出した」

ゼシカの呟きに、アンジェリカは首を傾げた。

「アレって?」

「このケーハク男がイカサマをやったせいで、大乱闘になったの。私たちも巻き込まれたのよ!」

「ああ」

アンジェリカは、得心が行って頷いた。あの時......マルチェロと再会した日、何故彼が怒り狂い、ククールに暴言を吐いていたのかが分かった。

「それでマルチェロ様は、カンカンだったのね!」

「そのカンカンの兄貴から、あんたは俺を庇ったんだ」

ククールが肩を竦めた。アンジェリカは首を横に振った。

「あの日の貴方は、本当に最悪だっーー」

彼女が皆まで言い終わらぬ内に、目と鼻の先を酒瓶がすっ飛んで行った。それは壁にぶつかり、砕け、カケラが辺りに飛び散った。
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