大切なモノ

□決意
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馬車の幌の中に寝そべり、アンジェリカは、布の隙間からチラチラと見える、空を眺めていた。

アスカンタ王は、気の毒な修道士見習いたちを温かく迎え入れてくれた。彼らは、心優しい王の元で、掃除や炊事、剣の稽古をしながら、これから先どうやって生きていくかを決めるだろう。

エイトたちは、パルミドへ向かう事に決めた。トロデ王が、アスカンタ王の催した宴席の話を聞き、羨み、いじけてしまったから。無理もない。此の所、緑の魔物の姿をした王は、乾飯しか食べていないのだ。

パルミドなら、どんな事情を抱えた人間でも受け入れてくれる。きっと、トロデに温かい料理を出してくれる店もあるはずだ。

アンジェリカは、半ば強引に馬車の中へ押し込まれた。顔色は死人の様に青白く、草臥れた表情をしていたからだ。

「よう」

暫く行った所で、ククールが幕を開けて幌の中に乗り込んで来た。アンジェリカは体を起こし、目を背けた。

「そろそろ話してくれるか。マイエラで何があったんだ?」

ククールは大人びた声色で訊ねた。彼が真面目に話をしようとしている証拠だ。

アンジェリカは、恐る恐る彼と目を合わせた。

ククールには、知る権利がある。マルチェロは、ククールの実の兄なのだ。

「......マルチェロ様が襲撃されたの。貴族出身の騎士団員たちに」

「......そうか」

ククールの答えは、実に素っ気なかった。

「いや、実は兄貴が襲われたのは、これが初めてじゃない。今までも、何度かあった」

「よく、貴方が疑われなかったわね」

「......そういえば、不思議だな」

ククールは本当に不可解そうに首を傾げた。

「それを理由に追い出せただろうに......疑われた事は無いな。......そんな事は良いんだ。あんたが、兄貴を助けてくれたんだよな? どうやって救ってくれたんだ?」
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