another world(短編)
□駆け引き
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マイエラ修道院に、二組の客が滞在していた。
一組目は、オディロ院長殺害事件の場に居合わせた、旅人とククール。
パルミドで情報収集をしている最中、馬車ごと全財産を盗まれたらしく、無一文で転がり込んで来たのだ。
先の一件のせいで、邪険に扱う事も出来ず、マルチェロは渋々部屋を貸し与えた。
そして、もう一組は、サザンビークの馬鹿大臣の姪率いる、世紀の我儘貴族たち。
彼女らは、巡礼という名目でこの地にやって来たのだが、庶民の集うドニの宿屋に泊まりたくないと大騒ぎをし、これまた、マルチェロは渋々部屋を貸し与えた。
そういうワケで、聖堂騎士団長兼マイエラ修道院長は、ここ数年で一番機嫌が悪かった。
彼が苛々とサザンビーク王家宛の手紙を書いていると、誰かが扉をノックした。
その音だけでも、癇癪玉を破裂させそうになったが、マルチェロは決死の思いで感情を飲み込み、平坦な声で入室を許可した。