another world(短編)

□旅人
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サヴェッラ大聖堂。

小雨の降りしきる中、彼女は石の階段を上り、昇降機の前まで進んだ。

見張りの聖堂騎士団員に一礼し、思慮深い瞳を伏せる。

「アンジェリカと申します。法皇様の仰せにより、ただいま罷り越しました。」

「どうぞ顔を上げてください!」

騎士団員は、大慌てで手を振った。アンジェリカは、ゆっくりと頭を起こし、微笑んで見せた。

「そんなに、驚かないで下さい。」

彼女は、マルチェロが忽然と姿を消した後、最も早く、煉獄島の住人を思い出した人間だ。ニノ法皇にとって、命の恩人であり、それ故に与えられた"司教"の地位は、妥当である。

しかし、アンジェリカは気取る事なく、一連のゴタゴタが解決した後も、仲間のいるトロデーン城に残った。ミーティア姫の教育係と、下々の人間に魔法や教義を説く役目をこなし、決して表舞台には立たずに暮らしている。

その清貧ぷりから、彼女に与えられた地位について、とやかく言う者もいなくなった。

「どうぞこちらへ!」

騎士団員は昇降機への道を開けた。アンジェリカは会釈をし、その脇を通り過ぎて、天上の館を見上げた。
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