大切なモノ
□決意
3ページ/5ページ
「俺なら」
ククールは、アンジェリカを押し倒し、真っ直ぐ言葉を続ける。
「俺なら、あんたに手を汚させたりしない! 側で守ってやれる。......だから、俺にしろよ」
今、彼が組み敷いているアンジェリカは、儚く、頼りなく、世界で一番美しいと思える少女だった。
「兄貴と違って、サディストじゃない。優しく出来る」
「やめーー」
拒絶の言葉を溢しかけた唇を、ククールは強引に奪った。アンジェリカは暴れて抵抗したが、それでも彼を気遣って、左腕は全く動かせずにいた。
そんな彼女の優しさに、ククールは心を掴まれて、どうしようもないもどかしさに捕らわれた。
「嫌なら、本気で抵抗しろよ」
耳元で挑発する様に囁くと、アンジェリカの腕が腰にのびた。短剣を引き抜き、その切っ先をククールの背へと向ける。しかし、その手は震えていた。
「あんたには出来ない。本当は、人を殺すことなんて出来ないって知ってる」
「ククール。貴方が本気なのは分かったわ」
アンジェリカは、ガタガタと震えながら囁き返した。人を刺した時の、鈍く重い感触は、忘れようも無い。
「でも、私も本気なの!!」
瞬間、ククールは全身が粟立つのを感じた。アンジェリカの真意が漸く見えたのだ。
「よせ!!!」
彼が動くのと、幌の幕が開くのは同時だった。
「ククール!!」
エイトの鋭く厳しい声、金属が木に突き刺さるくぐもった音。一気に三人が動き、空気が凍り付いた。