大切なモノ
□決意
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彼の聞きたい事は、アンジェリカにも十分伝わった。誤魔化す言葉は見つからず、彼女は震えながら声を落とした。
「ククールは......人を殺した事がある?」
「ないよ。......でも、目の前で殺される所は、何度か見た」
「......そう」
アンジェリカは、目を伏せ、顔を両手で覆い隠した。
「私は......人を殺してしまった。この手で......刺し殺してしまった」
「あんたは、悪く無い!」
「貴方はあの場にいなかったーー」
「見ていなくても分かるんだ!!」
ククールは、勢いよくアンジェリカの肩を抱き寄せた。
「そうするしか、無かったんだろう? だって普段のあんたは、人を殺せる様な人間じゃーー」
彼は、アンジェリカの手を包む様に握り、弾かれた様に放した。グローブを外してみると、ミミズ腫れの様な痕が付いていた。指輪の仕業だ。
「っとに......最悪な男だな! 近くで守って......慰めてもやれないのに、こんな物を贈るなんて!!」
ククールはアンジェリカの左腕を掴み直し、指輪を掴んだ。自分の指先に火傷の痕が付いて行くのも構わず、外そうとした。
「ククール! やめて!! 離して!!」
「黙ってろよ」
「お願い!! 貴方の指がーー」
「構わないさ!! こんなもの......」
少しずつ、指輪は動いた。しかし、その代わりに、ククールの綺麗な指先が、赤く爛れて行く。
「お願い! やめて!! ......外さないで!!!」
最後の言葉を聞き、ククールは手を離した。彼は信じられないと言わんばかりに、目を見開き、アンジェリカの瞳を覗き込んだ。
「......俺を心配してくれたのか? それとも、本気で兄貴の事が......」
「りょ......両方」
アンジェリカは、右手でククールの負傷した指先を握り、回復呪文を唱えた。
「私......あの人の事が......だから、こんな事をしないでーー」