長編

□過去の僕ら
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ぼくと名無しが出会ったのは小学1年生の頃。

僕は特に親しい人もいなくて隅の方でいつも本を読んでいた。
そんな時、彼女は現れたんだ。


「はじめまして!名無し名無しだよ!!お友達になってくれませんか?」

屈託のない笑顔で彼女は話しかけてきてくれたんだ。

「ぼ、ぼく?」

本ばかり読んでるこんな湿気じみた僕に唯一話しかけてくれたのは友達が沢山いる君だった。

「名無しちゃん!!逢坂君は本が好きだからそっとしてあげなよ」

友達からの僕の評価。僕は下を向いて唇をかみしめた。

「何言ってるの。こんなに素敵な男の子なのに。本ばかり読んでいるのもったいないよ?壮五君」
「素敵・・?」
「うん!!あなたのその髪の色、その瞳・・・とてもきれい。お母さんがつけてる宝石見たい」

僕の顔を覗き込んだ彼女の瞳は輝いていて僕は一瞬で君に引き込まれたんだ。

「ほら!!こんなにかっこいい」

無理やり顔を掴まれたと思ったら、彼女は僕の下向きがちの顔を上に向けたんだ。

「確かに言われてみればかっこいいかもしれない!!」

クラスの女子が一気に騒ぎ始めた。さっきまでの静けさはどうしたのってくらい。

「ずっと話しかけたかったんだ。でも、ちょっと勇気が出なくてね。よかったら一緒に遊ぼう?」

そして彼女は僕の耳元でそっと話しかけてきた。

「私、歌うの好きなの。よかったら一緒に歌ってみない?放課後一緒についてきて?」
「え、いいの・・・?」
「良いに決まってる、もう友達だもん」
「うん・・・一緒にいく!!」
「約束ね。私名無し!!そうちゃんって呼んでいい?」
「そうちゃん?うん・・・!!」

初めてそうちゃんって呼んでくれたのも彼女だった。


放課後

「友達はいいの・・・?」

あんなに沢山いた友達なのに。

「いいのいいの。みんなはそれぞれ習いごとや親との約束あるから」
「名無しちゃんは?」
「うん・・・パパとママが忙しいから家に誰もいないの。寂しいからこうして川原に来てるんだ」

僕が連れてこられたのは広い河川敷。割と田舎の町だからこういうところで遊ぶ子が多い。
周りを見れば何人か野球をしたりサッカーをしたりしてた。

「ここの草むらにこうやって寝そべるとね、空みて」

彼女の指が差した空はきれいな青空で
普段下向きな僕はそのきれいな空を久しぶりに見た。

そこで僕たちはたくさん会話した。

「私のパパとママはね、有名な歌手とピアニストなの。だからよく海外行っちゃっておばあちゃんとかも来るんだけどもう年だからなかなか来れないし・・・迷惑かけられないから基本一人でこうしてるんだ」
「ひとり・・・?名無しちゃんも一人なの?」
「そうだよ?いつも一人ぼっち。でもいいの。放課後の友達もできたし、また一緒に遊んでくれるよね?」

僕の方を向いた彼女はまたまた笑った。

「僕なんかでよければ・・・」

「僕なんかじゃないよ。そうちゃんはもう立派な友達!!」

そんな話をしていたらいつの間にか空はオレンジで
長い時間話していたようだ。


奇麗な夕日だなぁ・・・

横でそう呟いた彼女の口から紡がれたのは

「夕焼けこやけで日が暮れて」

透き通るような小さな声が聞こえた。

「名無しちゃん?」

構わず歌う名無し。その歌声は幼いながらも、人を一瞬で魅了できるくらいきれいな音色だった。

「名無しちゃん。歌うまいんだね?」
「うまいかなぁ?初めてだなそう言ってもらえたの・・・あっ初めて人前で歌ったんだった。そりゃ初めてだよね」

舌をぺろって出して笑う名無し。とにかく彼女は笑顔が絶えない子だった。

僕もこんな風に笑えたらいいのにな・・・

それから僕たちはいつしか親友という名の仲で時を共に進んできた。

名無しに物心がついたとき、それは小学4年生だった。

だけどその物心はこれからの彼女に苦悩を与えるなんて知らなかった。


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