Pistol

□言わなきゃわからない
1ページ/1ページ



▼ひとりの優秀なまふぃあ と そのこいびと の はなし!



アランとあたしはそんなに歳は変わらない。彼は16、あたしは15だ。アランは一つ上なだけ。たった一歳。大人っぽくて二十歳と言われても頷けるアラン(そりゃ、身長的にはまだ伸びる余地がありそうだけど)に対して、あたしは少々子供っぽい。たった一歳の違いがこんなに変わるものなのか(だからといってあたしが16であったとしても彼のようになれないのだから、たった一歳という表現は間違ってるのかもしれない)
それでも同い年ならいいのかと聞かれたらあたしはきっと否と答える。彼と釣り合うにはもっと色っぽくてセクシーで(あれ同じ意味?)頭のキレる大人のオンナじゃないといけないから。例えばティアさんみたいな(三十路はとっくに超えてるハズなのにまだまだ二十代前半でも通るってどういうことかしら)


ああ、なんて劣等感!アランと恋人なばっかりに!




『イヤだ、やっぱりもう止めにしたいよアラン』

「……」

『あたしばっかり一人で好きみたい、……実際違うのかって聞かれたら答えらんないけど』

「……」

『終わりに、した い 、』



この事でマチルダが泣いたのは何回目だろうか。何度言い聞かせても不安がるのを止めねえ。一人で好きみたい、だ?馬鹿を言うな、そんなことを言ったら俺のこの馬鹿みたいな感情は何だって言うんだ。愛おしくて仕方がねえなんて言えやしねえさ(…本人には言えてねえが)寄ってくる愛人たちに囁いてるようにこの口が動けば多少はマチルダも不安がるのを止めるのか?愛してるのだと囁くのは容易いことだったハズなのに!(さあ動け、俺の口)……本命にこんなんじゃついてる意味がねえだろう。
イライラして舌打ちをした。……違えよ、お前に舌打ちしたんじゃねえって、だからそんな悲しそうな顔すんな。マチルダが泣くのを見るのは嫌いなんだ。苦手だとか、そんなもんとうに通り越した。身体が硬直し、安い慰めの言葉を吐こうとした口の動きが固まる。これがディックやアイザックだったらこんなに気にする事もねえんだろう(何も気にせず悪態だって吐く)簡単な筈の事が、マチルダを前にすると恐ろしく難しく感じる。仲を拗れさせる事はなんて容易いんだ。
愛してる愛してる愛してる(ああ一度だっていい、気負わず口から零れ落ちてくれ頼むから)

 愛してんのに 、
(口から溢れるのは自分への落胆の溜息と意味を持たない擬音だけ)



『止めにしよう?』

「……」



少しだけ口をパクパクさせたアランは何か言いたげにあたしの方を見た後、軽く首を振った。馬鹿みたいよアラン、そんなマヌケ顔を人の前で晒すなんてどうしちゃったの(なんて、周りにはあたししか居ないけど)首を振ったって事は了承の合図?それとも否定なのかな、ああそれすらわからなくなってるなんてどれだけアランの事解ってないのあたし。こんなに面倒な恋人なんて厭になっちゃえばいいのに。でも嫌いにはならないでなんて、なんて矛盾でしょうか!好きよ、好きよりもっと愛してる(こんな感情どっかに棄ててしまいたい)
彼は再び首を振ると苦笑してあたしの頭に手をやった。……ねえアラン、あたしこの後起こる事全部当てれるよ。何回繰り返せば終わるのかな。あなたにぐしゃぐしゃにかき乱された髪と同じようにあたしの心の中もぐしゃぐしゃなんだ。



「……」

『……』



トドメの一言が俺の胸を貫く。焦がれるような沈黙に息苦しさを感じてしまう。愛してる、そんな言葉じゃ足りねえよそんな安い気持ちじゃねえんだ。何を口にしても陳腐でくだらない台詞になってしまう気がして、空っぽの想いだけが溜め息となって部屋を漂った。
俺は誰だ?――天下のヒットマン、アラン様だ。この俺を阻めるもんなんて今じゃ片手で数えれる程しかねえ。何人もの女を手玉に取り、口説き落としたし、名のある麗しい愛人も沢山いる。なのにどうして、(急にマチルダを抱きしめてキスをしたくなった)



「……別れるなんて言うな、」

『…ん』

「俺もお前の事、……マチルダの事ちゃんと想ってるから」

『…ん』



でもねあたし知ってるのよアラン!あたしが沢山いる愛人たちの一人だってこと。ううん、きっとそれ以下。だって昨日リーナさんに愛してるって囁いてたもの、あたしは一度だって言ってもらってないのにね。ねぇどうしたらいいと思う?無限のループ、あたしの思考の辿り着く先はやっぱりお別れ。嘘でもいい、愛してるって囁いてくれればそれで全て丸く収まるのに!(アランが愛してるって言うのを恥ずかしがる人には見えない)(戻って来て、昔のアランを唯愛してた頃のあたし)

他の愛人と手を切ってと言いたくなってしまうあたしのなんて我侭なこと!



わなきゃわからない
(ポタリと冷たい雫が床に落ちた)





相手の心なんて読めないよ 愛し合ってるのにまるで一人相撲みたいだ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ