アルスラーン戦記

□モーニングコール
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『モーニングコール』
大学生×教授

まだ講義が始まるには随分早い時間、学生やサラリーマンたちの出勤に混ざり大学へと向かいながらクバードはポケットから携帯電話を取り出す。
送信履歴から選ぶのは愛しいあの人。

多分、いや、間違いなく、まだ夢の中の筈。

クバードは通話ボタンを押した。
十回以上のコールを聞いたぐらい、ピッとゆう機械音の後にやっと聞きたかった声が聞こえてきた。

『はーい…』

寝ぼけた虚ろな声。
自分の電話で起きたことが窺えて、自然と口元が緩んでしまう。

「おはよう、シャプール。その様子だと、また今日も研究室で寝ていたのであろう?」
『うーん…』

電話の向こうの彼は決して寝起きが悪い訳ではないのを知っている。
しかしなかなかの無精者で、夜遅くまで研究に没頭しソファーで一夜を明かすとゆうケースも珍しいことではない。きっと昨日もそんなところなのだろう。
いつもサラリとした髪をクシャクシャにし、ソファーの上で仰向けに寝転がっている姿が目に浮かび思わずクスッと声に出して笑ってしまった。

どうやらそれが聞こえていたらしい。
回線の向こうで微かに不満そうな声が聞こえてくる。











『…なんで笑ってるんだ…?俺が研究室で寝るの、笑うほど可笑しいか?』
「いやっそうゆうんじゃなくて‥可愛いなってな?」
「………ふんっ‥」

まだ寝ぼけていたことに助けられたか、中里はまだしっかりと稼働していない思考でたっぷりと思案してから一つ声を漏らして引いた。
ごそごそとゆう衣擦れの音が聞こえ向こうで寝返りを打ったのだと察し、クバードは自身が電話をしたもう一つの目的を思い出す。

「あ、シャプールまた寝るなよ?お前も9時から講義があるんだからもう起きて準備を始めてろ、遅刻されたら俺らが困る」
『んー‥分かっておる、御主に言われなくても…』

人の忠告にも実にマイペースな声が返ってきてその緊張感の無さにクバードの口許が緩む。
こんなところもまた可愛いんだが……講義がなくなるのは困る。

仮にも大学生、単位は欲しい。

まだまだ危うく聞こえるシャプールの様子に歩くペースを早めながらクバードは口許に笑みを浮かべ愛しい相手の姿を思い浮かべる。

「はいはい。じゃあ…俺が研究室に着くまでにちゃんと起きて、少なくとも顔を洗っておけよ?もしまだ寝てるようなら――」

薄く形のいい唇が瞼の裏に蘇り、きっと、自分で思っていたよりも声は弾んでいたに違いない。

「キスして襲うからな」
『え、な…』

ピッ。

何か言いたそうなシャプールの声が聞えたが、ワザと終話ボタンを押し電話を切った。
寝ぼけた頭で自身が言ったことを必死で考えているシャプールが目に浮かびついクックッと笑いが抑えきれなくなってしまう。

あぁ、早く研究室に行かねば。

もし考えきれずに再び横になっていれば言った通り、朝から触れるチャンスが出来るのだ。




さて…今日はちゃんと起きているか否か。

早足が次第に駆け足になっていき、大学の敷地内に入れば他の者には目もくれずシャープールの研究室へと向かう。

早く行けば行くほど彼との時間が増えるのだ。






これが、毎朝の楽しみ。
愛しい人への
ラブモーニングコール。















研究室のシャプールはと言えば、ツーツーと回線が切れた音が聞こえる携帯電話を見つめガシガシと寝癖のついた髪に指を入れ頭を掻く。

「……………起きてたって、『起こしてあげたご褒美』ってキスするのではないか」

眉を寄せ唇をへの字にし携帯を足元へ放るもその顔は照れくさげに淡く染まり、遠くから響いてくる慌ただしい足音を確かに耳にしながらシャプールはもう一度白衣にくるまりソファーへと寝転んだ。



END


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