桐生夢小説
□違う世界
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あれから2年後。
いつもと変わらないアサガオ。
しかしそこには、桐生と遥そして芽依と拓海の姿はなかった。
太「・・・おじさん達何してるのかな。」
三「さぁ・・・。」
綾「ほら、そこ!掃除の手を止めない!」
太「わかってるよ!」
しかし、綾子の顔にも元気はなかった。
今から約1年前。
それは突然やってきた。
芽「はーい!」
白いスーツを着た女性がやってきた。
芽「あの、何か御用ですか?」
「はじめまして。私はこういうものです。」
女性は名刺を手渡した。
芽「ダイナチェアの朴美麗さん?」
朴「はい。大阪で芸能事務所をやっています。少し、お話しできませんか?」
芽「え、ええ。」
芽依は朴をアサガオに入れた。
そして、桐生を呼ぶ。
桐「大阪の芸能事務所がなんのようだ。」
朴「澤村遥ちゃんを私に預けてもらえませんか?」
芽「えっ?」
朴「遥ちゃんを芸能界デビューさせるべきだと言っているんです。」
桐「・・・あんた、何言ってるんだ。」
朴「それと、ここから出て行ってもらえませんか?桐生一馬さん、桐生芽依さん。」
桐「・・・言っている意味がわからねぇな。」
朴「あの子を琉球街の本屋で見つけてから1週間、この養護施設のこともどういう環境で育ってきたのかも全て調べさせてもらった。」
芽「・・・・。」
朴「もちろんあなたの前の職業もね。」
朴は桐生を見つめる。
朴「澤村遥・・・容姿やスタイルは粗削りだけど間違いなく逸材、磨けば光るわ。私なら彼女をギラギラに光る宝石の中でも、特別な存在にすることができる。」
桐「・・・。」
朴「私にあの子を預けて。必ず成功させて見せる。」
桐「その条件が、俺たちがここを去るという事なのか?」
朴「人間というのは誰かを好きになればなるほどその人の裏を知りたくなるものなの。血液型、出身地・・・服の趣味や家族構成。」
芽「・・・。」
つまり、元とはいえ極道だった桐生とその妻に育てらたと知られては遥のためにならないという事であろう。
朴「彼女を守るためなの。あなた達と一緒にいた過去を消し去る事ができれば、私は彼女を守れる・・・だから。」
桐生は立ち上がる。
桐「もういい、話はわかった。」
朴「返事は?」
桐「俺たちはここから離れるつもりはない。」
芽「一馬さん。」
桐「アサガオの子供達にとって俺達がいなくなることは幸せな事じゃない。必要とされる限りここで生きていくつもりだ。」
すると、昼寝をしていた拓海が起きたようだ。
拓「あーー!」
芽「はいはい!今行きますよー!」
芽依は拓海の元へ向かった。
桐「それじゃあ俺たちはやることがあるんだ。勝手に帰ってくれ。」
朴「ふっ、何もわかってない。随分世間知らずね、あなた。」
朴も立ち上がった。
朴「女の子1人に夢を見せることすら出来ない男が、カッコつけてんじゃないわよ。」
桐「・・・。」
朴「彼女だけじゃない、他の子達も同じ。アサガオに夢はない。あなた達がいる限りずっとね。」
芽「ちょっとあなた!言わせておけば!」
芽依は拓海を抱き上げ戻ってきていた。
朴「あの子達は全員怯えている。今だけの幸せが壊れてしまうことに。」
桐「・・・。」
朴「あの子達は心からあなた達を愛してる。でも、あなた達と居ることの幸せを守ろうとして、全てのものを犠牲にしても構わないとすら考えてる。」
芽「・・・。」
朴「例えば・・・夢。あなた達にもわかるでしょう?子供達が大きくなるに連れて、夢ってものが大切になるって事くらい。あなたも、世界一の空手家を目指して頑張っていたでしょう?」
芽「それは・・・。」
朴「彼女を私に預けてくれればその代償に子供達の夢への補償をするつもりよ。全員が成人するまでの養育費、その他才能への投資。全て私が面倒を見させてもらう。」
芽「あの。私だってそれくらいの余裕はあります。こう見えたって・・・。」
朴「高柳整体院の社長で、あの神室町の物件の所有者。」
芽「・・・。」
朴「言ったでしょう、全て調べたって。お金の問題だけじゃない。あなたは堂島の龍の妻なのよ。それにその子供はその血を引き継いでる。」
芽「・・・。」
朴「そんな人があの子達のそばにいたら、追える夢も追えなくなる時が必ず来る。そういうことも言っているのよ。」
芽「・・・。」
朴「安心して、遥ちゃんは絶対に成功する。歌手という道はあの子にとってかけがえのない夢になるわ。」
桐「どうしてそう言い切れるんだ。本当にそれが遥の夢かどうか、あんたに何故わかる。」
朴「簡単よ。私の夢も同じだからよ。夢は受け継がれていく。人から人へ、必ずね。」
遥は、そんな会話を廊下で聞いていた。