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□奪えるなら。
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「もーうっしーうるさい。」
低い声だった。
というより、ドスの利いた声。
ヤンキーとか、そんな部類の。
「いーじゃんどうだって。あの2人は一緒に出て行ったんだし、今頃どうにかなってるよ」
「あそう。フジは、キヨがレトさんを追いかけて行ったことを後悔してるんじゃないの? ほんとはキヨに構ってほしくて、レトさんより自分を見て欲しくてあんな事言ったのに。あーあやっぱレトさんの方なんだーみたいな」
「俺は二人の仲を邪魔したかっただけだよ。勝手な妄想はやめてようっしー」
俺とフジの間に険悪な雰囲気が漂う。
ああ、こんなはずじゃなかったのに。ちょっと注意するだけで終わるはずだったのに。
「大体、俺はもうキヨに振られたからいーの」
「え、まじで?」
驚いた顔をすれば、酔った勢いからかフジはキヨに自分が押し倒されるまでの経緯をすべて俺に話してくれた。
「すげーなお前」
ちょっと無茶しすぎじゃないかとも思うけど、片思いだってわかっていてそこまでするのは勇気がいる。
なにより相手はキヨだったんだし。
「でも諦められないんだろ?」
こく、とフジは頷く。
さっき言っていたことと違う気がするけど、未練たらたらなのは見てて丸わかりだ。
「じゃあ、正々堂々勝負するもんなんじゃねーの、普通は」
あんな事言わなくたって、フジの魅力を伝える方法なんてたくさんある。
そう伝えると、フジは途端に涙を流し始めた。
ここが個室で良かった、改めてそう思う。
「俺、2人に悪いことした。後悔もしてる。でも、まだどこかでこのまま俺のせいで別れればいいのにって思ってて……」
「でもさぁ、お前のせいで別れてもキヨはお前のものにはならねーんじゃねーの? むしろ根に持つと思う。第一、あの2人は引くほど仲がいいから別れるなんてないと思うけどな」
自分でも正論を言っていると思う。
フジはぐすぐすと鼻を啜りながら泣いていて、上手く慰めることが出来ない俺はそんなことを言うしかなかった。
「うっしーなら、謝る?」
「俺なら、まずキヨに謝って、レトルトに本当のこと全部話すかなあ。仲直りは出来たとしてもどこかで誤解が生まれてて、俺のせいで二人の間に小さい溝が出来ちゃってたら嫌だし。」
「そっか……」
フジは俺の言葉に納得したように頷く。涙も止まってきたようだ。
「俺、ちゃんと謝ってほんとのこと話す」
「おう」
遠回りしたけどわかってくれたみたいで、解決できてよかった。
また酒を追加しているフジに注意をしつつ自分も頼む。
なんだかんだ、それから大分長く2人で酒を飲んで駄弁っていた気がする。