Book
□奪えるなら。
1ページ/4ページ
「お前ってそんな性格悪かったっけ?」
レトルトとキヨが店を出て行ったあと、枝豆をつまみながらぼーっとどこか遠くを見ている様子のフジにそう声をかけた。
フジが上の空なのは酒のせいではないだろう。彼は酔う体質だとしても、こんくらいで自分の言っていることの善し悪しの区別が出来なくなるほどは酔わない。
「さっきのキヨの話、嘘には思えなかったけど、レトルトの前で話すことはなかったんじゃねーの?」
フジはあー、と返事なのかどうかわからない反応をする。
キヨもキヨで、あの反応はいかにも『そうです、フジの言っていることは正しいです』と言っているようなものだったから、わかり易すぎてどうかと思ったけど、
俺はフジが、キヨとレトルトの仲を引き裂こうとしているみたいでどうも気に入らなかった。
というより、明らかにあれはキヨとレトルトの仲を引き裂こうとしていたに違いない。
そう確信できるのは、フジがキヨのことを好きなのを知っているから。
それにしても、あれはやりすぎというか、本来ならしてはいけないことだと思う。
「うっしーはあれが全部演技だって知ってて、自分もそれほど酔ってないのに酔ってるふりして俺とわいわいしてたんでしょー?」
「俺は場の空気を悪くしたくないからああやって自分なりに盛り上げたんだよ」
「んー」
相変わらず気のこもってない返事を返してくる。
自業自得だろうに、イラついてきたから相手の図星をついてやることにした。
「キヨが好きで、奪ってやりたくて、でも二人の仲が良すぎて嫉妬しちゃって、普通にアタックしても無理だと思ってあんなこと言ったけど、流石にやりすぎたかなあって後悔してんだろ?」
「………」
フジはその言葉になんの反応を示すこともなく、いつの間にか追加されていた酒をただひたすら飲んでいた。
「お前、そろそろほんとに飲みすぎじゃねーの」
その言葉にフジは持っていたコップをがたん、と机に叩きつけた。