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□奪われたくない。
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今日は某動画サイトでの公式生放送があった。
今は俺、レトさん、うっしー、フジの4人で打上げとして居酒屋に来ている。
先日、フジから突然の告白を受け無理やり襲われそうになったものの、そんな事件はなかったかのように、今は普通に遊んだり実況を録ったりしている。
大体俺は下じゃなくて上だっつーの、襲われるとかマジ勘弁。
この件は、現在付き合っているレトさんには内緒にしている。言ってしまえばフジの気持ちも言うことになるだろうし、レトさんとフジが万が一不仲になってしまったらと思うと嫌だ。
「フジーぃ、なんか面白い話しろよー」
「えー、おれーぇ?」
うっしーもフジも既に結構酔っていた。うっしーはあれ、さすがに飲みすぎだろ……。
「お前ら飲みすぎんなよー」
「うっしー、顔真っ赤。もう飲まない方がええんちゃう?」
一方、俺とレトさんはお酒は飲んでいない。レトさんはお酒を飲めない体質だし、俺も今日は気分じゃないからウーロン茶を飲んでいる。
「あっ、そーだ。この前ねぇ」
うっしーに面白い話をしろと言われたフジが、喋り出す。
あまり期待はしていないけど、俺はフジの話に耳を向ける。レトさんとうっしーもそちらに耳を傾けている。
「キヨの家に行ってさぁ、俺キヨに馬乗りになられてー、そんでねー」
「は!? お前、やめろっ、ストップ!!」
馬乗りになられて、なんてワードだけでも危ない。
何が危ないかって、そりゃうっしーとレトさんがいるから危ないんだけど、一番はレトさんに勘違いされそうで……。
しかもそれってこの前のやつじゃないか。その先って───
「キヨが俺の股間ぐりぐりーってしてきてさぁ。いやもぅそりゃー痛かったんだけどね、なんかちょっと気持ちよかったかなあみたいな?」
くっそ、やっぱり。
てかなんだよ、気持ちよかったって。きもいわ、それは普通にきもいよフジ。
「はー? 何お前それ、なんか変なやつに目覚めちゃったんじゃねーのー?」
ぎゃはは、とうっしーは笑っている。うっしーの反応はフジの新たな性癖をからかうだけで、それ以外は深く詮索されなかったからよかった。
でも、
「あ、の、レトさん……?」
レトさんがさっきからずっと下を向いている。
ここじゃまともに言い訳もできないし、レトさんと話し合うことも不可能に近いだろう。
「レトさん、ごめ……」
「なんで謝るん? キヨくんなんか悪いことしたん?」
咄嗟に謝ると、下を向いたレトさんの口からいつもは聞かないような低い声。
いつも通り鼻声で滑舌も悪いけど、威圧感のある声が聞こえた。
うっしーとフジはこんな状況なのにも関わらず、というよりこの状況が見えてないだけなのかもしれないが、けらけらと2人で盛り上がっていた。
「キヨくん、俺先帰るわ。もうこんな時間やしな」
「お、送ってく……!」
その声が聞こえたのか聞こえなかったのか、レトさんはうっしーとフジに先に帰ることを告げてお金だけ置いて先に行ってしまった。
俺も慌てて追いかける。
「レトさん待って……!」
「キヨくん、俺ん家来て話さん?」
そう言ったレトさんの声は震えていた。
こっちを向いてはくれないからわからないけど、きっと泣いているんだろう。
でも、話すチャンスをくれるレトさんはやっぱり優しいなって思う。
俺は悪いことをしていないはずだから、レトさんはきっとわかってくれる。
優しくて、俺の大好きな恋人ならきっと。