トリック&トリック
□普通じゃないよ
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衣笠先生がいなくなって、10分程が経過しただろうか。
「これ……どうすればいいの」
私は未だに教室から動けずにいた。
何でかって??
校舎の出口がわからないから。
「てかなんで誰もいないの?ねぇ、まさかの土日パターンですか!?」
せっかくB6が拝めるかと思ったのに……!!
何故平日にしなかったんだ私の夢よ。
「まぁいいや……キヌさん拝めたし、それで許すとしようじゃないか」
校舎内を冒険しようかとも思ったのだが、所詮は私の夢。リアルな構造まで再現できる筈がないのだ。
後はここで夢から覚めるのを待つだけ。
「あーあ……せっかく聖帝に編入出来るのに、なんか惜しいな」
そんな私の戯れ言は誰にも聞かれることなく、夕日で赤く染まった教室に虚しく響いては消えていった。
「夢じゃない」
「そう。夢じゃなかったら……ハッ!?」
ふと聞こえた声に返事をしている途中で違和感に気が付きバッと振り替えると、さっきまで私以外誰もいなかった筈の教室の端に黒髪の少年が立っている。
「ぎゃぁぁぁぁあ!?でたぁぁぁ!?」
「人を幽霊扱いすんじゃねぇーよ!」
突然の出来事に完璧に腰を抜かし、その場にへなりと座り込むと、少年は眉間にシワを寄せた。一体いつ、どうやってこの教室に入ってきたのだろうか。
「ってそんなことより!夢じゃないってどういうこと?というかあんたは誰なの?」
あんたは誰なの。
その言葉が私の口から出た瞬間の彼の表情はなんというか心底驚いたような、それでいて何処か悲しそうに視線を下に向けた。
「あ……」
そんな彼の表情に私は胸がぎゅっと締め付けられるような思いになる。
何故だろう。彼とは初めて会った筈なのに、酷く懐かしく感じられる。と同時に、心の中にモヤモヤとした気持ちの悪い感覚が生まれるのがわかった。
例えるなら、友達と何処か遠出するときに電車に乗っているときになってから何か忘れ物をしたような気がして気が気じゃなくなってしまうような。
私は……何か大切なことを忘れている??
「……俺はユウキ」
「ユウキ?へぇ、ありがちな名前だね」
「お前色々失礼だな」
「あ、私は「篠崎優乃」…えっ、なんで私の名前知ってるの!?」
まさかストーカー!?
なんてわざとらしく言ってみると案の定、ちげぇーよ!と不服そうな声が返ってきた。
「お前、ホントに何も覚えてねぇーの?……自分が交通事故に会ったことも?」
「はっ?交通事故??」