トリック&トリック
□普通じゃないよ
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じゃあ、また次の世界で。
ジリジリジリッ!!
憂いを帯びた低い声がほんの一瞬、私の頭に響いたかと思うと次の瞬間にはけたたましいアラームが鳴り出し、堪らず私は騒音の原因に手を伸ばした。
……筈だったのだが、手は空を切り目的の物を叩くことが出来ない。
可笑しいな。いつも目覚まし時計はここに置いてあるのに……。
何度手を伸ばしても触れることすら出来きず、流石に不審に思った私は重たい瞼をゆっくりと開いた。が、開けた視界に写るのは見知らぬ教室のような部屋。先ほどまで大騒ぎしていたアラームもいつの間にか止んでいる。
「あれ……」
「おや、やっと起きましたか」
「……ん?」
なんとも言えない優しげな声が頭上から聞こえたため顔を上げ、私を見下ろす大きな人影に視界を移した。
「ッ!?」
と同時に眼球が飛び出るんじゃないかと言うほど目を大きく見開く。
「ふふふっ、まるでオバケでも見るような顔ですね」
長い髪を一つにまとめ、優雅に微笑んで見せるその男性を前に、私の思考回路は完全に停止してしまっている。
「…き……衣笠…先生……?」
声に出さずにはいられなかった。
そう。彼はvitaminXという乙女ゲームに出てくる教師の一人であり、決して三次元に存在してはならない人物なのである。それがなぜ目の前に……
そうか。これは夢なのか。
だから、目の前にゲームのキャラクターがいるのか、うん納得。
「随分お待たせしてしまいましたね。すいません」
「い、いえいえ、とんでもないです!」
聖帝の天使とも崇められる衣笠先生に頭を下げさせるなんてバチ当たりなこと例え夢でも出来ないので、慌てて手を左右に振った。
「こちらが編入手続きの書類になります」
そういうと机の上にいくつかの資料を並べて……
「えっ!?編入!?」
「??先程編入試験を受けてましたよね?」
「え……あ、は、はい」
思わず大きな声を上げると、不思議そうに首を傾げる衣笠先生。マジ天使だわ可愛い……じゃなくて。編入!?聖帝に編入!?夢みたい……いや、夢だったな。
「篠崎さんが編入するのはClassBですね。校則等はこちらの資料に乗っていますので、よく目を通しておいてください。
では、お疲れさまでした。新学期、お会いできるのを楽しみにしてますよ」
ふふふっと柔らかい笑みを浮かべて衣笠先生は教室を後にする。一方の私はというとアホのように口を開けて、ただただその場から動くことが出来ずに呆然と衣笠先生の消えていった出口を眺めていた。