□感謝なき者入るべからず!
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「……時に、チロよ」

「千流です」

「『千代婆』は……まだ戻らんのか?」

「!」


ザアアァァアアア――……。


「……っ!」


珍師範が出した名前に小松さんが反応すると、少し強めの風が吹いた。なんだろう……まるで不安だけでなく、不吉の前兆のような感覚がした……。風を技に使っている私だからこそ反応したみたいで、他のみんなは珍師範と千流さんに注目している。


「ええ……。残念ながら、先代はまだ……」

「千代婆ほどの者にいったい……。戻ったら、すぐに教えてくれや。また食べたいんじゃよ…千代婆の料理が……」


千流さんにそう伝言を残した珍師範がロストフォレストに入ったので、私たちは彼を見失わないように付いて行く。


「あ、あの〜……」

「ん? どうした、小西」

「こ、小松です……。さ、先ほど言ってた千代さんって、もしかして……」

「ウ〜ム。雲隠れ割烹の初代料理長・繊細料理の千代じゃよ」

「や、やっぱり! 包丁ひと振り1億円と言われた料理人……かつて、美食人間国宝・節乃さんとも肩を並べたほどの天才ですよね!」

「料理人ランキングでも、常にトップ5に入っていた。その圧倒的なカリスマ性で世界中に熱狂的な弟子も多かったと聞くが……」

「確か、数年前からランキングでも名前を見なくなったよね」

「!」


……瑞貴の言う『料理人ランキング』で、小松は99位に入った共に修業した仲間・大竹のことを思い出した。


(料理人ランキングっていえば、竹ちゃん最近どうしてるんだろう? それに瑞貴さんとはいったい……?)


……数ヶ月前に再会したが、彼が記者に賄賂を渡して店を過剰に宣伝していたのだ。小松はそれは間違いだとお互いの意見のぶつかり、さらに大竹は瑞貴こと舞獣姫を何故か敵視している。


「千代婆は、急に消息を絶ったんじゃ……。原因は――不明」

「「えっ!」」


立ち止まった珍師範から放たれた言葉に、私も小松さんも驚きの声を上げた。そして珍師範は顔の半分だけこちらに向ける。


「それからじゃ。世界中で消息を絶つ料理人が急増したのは……」

(もしかして……!)

「雲隠れ割烹の現料理長・千流さんにも何も言わず原因が不明ってことは……」

「まさか、さらわれた?」


……小松は大竹の話題が最近何も聞かないのは彼もその事件の被害者だと思っており、小松の心境を知らない瑞貴とトリコもまた千代という人物が連れ去られたのかと思った。


「考えにくいのう……。千代婆はもともと食林寺の師範代も務めたほどの実力者。ちなみに、わしのコンビでもある」

「「「ええっ!?」」」

「そこらの奴に連れ去られるほどヤワではない」

「千代さん、師範とコンビだったんですか!?」

「フフフフッ、まあな」


食林寺の師範と師範代がコンビって……絶対にトップクラスで間違いないね。それにしても千代さんが『さらわれた』じゃなかったら……まさか、『付いて行った』? 考え過ぎかな?
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