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□食林寺に守護神現る!?
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……空に引き寄せられるように浮かぶ感覚をしたトリコが下を見ると、痩せ細って倒れている自分が見える。自食作用(オートファジー)のときと違い、意識ではなく本当に現実の自分がいた。
(まさか最後が……飢え死にとはな……)
ドクン……ドクン……ドクン……。
(心臓の…微かな音が聞こえる……。俺の体……ずっとずっと…ムリさせてきたが……今まで本当に……ありがとう……!)
次に浮かんできたのは今までの食事……そして食事の原料でもある食材。仲間とも好きな人とも楽しく過ごせた思い出の中には『食』が一番多かった。みんなで分かち合い、その感動を語り合い、思い出となった。
(そして…その源である…俺の血や肉になってくれた……全ての食材に……食に……――感謝します)
パアアァァアアア――……!
天から神々しい光が降り注ぐと、トリコの全身からも出る光に応えるように、あちこちからシャボンフルーツが現れた。それも偽物ではなく本物のシャボンフルーツが。
(クタクタになった命が……そっと抱き上げられる……。この優しい温もりは…命の温もり…何度も口にした……食材の温もり……!)
その光に導かれるように死にかけたトリコの意識が浮かび上がる。そして自分の目の前に浮かぶのがシャボンフルーツとわかり、ゆっくり顔を上げると珍師範がどこかホッとした顔でいた。
「どうやら間に合ったようじゃな。これが、本物のシャボンフルーツじゃよ。寺宝は最初からそこらにあった……お主の食への感謝の念が極限まで深まるのをジッと待ってな……」
シャボンフルーツは常にこのバブルウェイに潜んでいたのだ。そしてトリコが極度の飢餓に襲われたとき、同時に今までの食へ感謝している心に反応したのだ。
「シャボンフルーツの出現――食のありがたさを真に理解したという証拠じゃ。さっ、食べるがよい」
「あっ……」
「食に、没頭せい!」
トリコは口元に現れたシャボンフルーツに恐る恐る口をつけると、スルスルと口の中に吸い込まれていく。
(うめぇ……! 噛む度にポロポロとほどけながら…シュワッとした炭酸が溢れ出て来る……! まるで蜜のように甘い……シャンパンのゼリー!)
「調理を施せばさらにうまいシャボンフルーツだが、そのままでもおいしく食べられる」
(食道……胃へ到達……。ありがとう……俺の体の一部になってくれて……ありがとう……シャボンフルーツ……!)
こうして食べることで自分の体の一部となり、自分の力となってくれたシャボンフルーツに、トリコは感謝のあまり目から涙が溢れてきた。
「食べる前や食べてる最中だけではなく、体内に入った食材へ動向をも敬い感謝する……。血や肉になったあとも感謝し続けることこそが食に没頭する――『食没』ということ。食没にて体に吸収した食材が、今度は食材のほうが食べてくれた者に感謝し、ありったけの栄養を体に注いでくれる……ほぼ、無限にな。さあ、寺宝はたっぷりある!」
珍師範は手から巨大なスプーンを出すとその上にシャボンフルーツを山のように乗せた。立ち上がったトリコに差し出すために。