BOOK 松

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高校を卒業してすぐ就職を決め3年
六つ子の弟たちも高校を卒業したけれど
定職にはついていない、つまりニート
家にお金を入れる額を増やし、さらに仕事を頑張ろうと心に決めた
そのやる気を評価してくれて、他の仕事も先輩と一緒にやるようになったのに


「ハァ、ハァ・・・・・・可愛いよ、松理ちゃん・・・・・・」

『や、やめて……!』


仕事帰り、いつもの帰り道を歩いていれば、いきなり路地裏に引きずり込まれた
目の前には見覚えのない、汚い男が息を荒くして立ってる

こいつ、ヤバい!
そう思って、スマホの履歴の一番上を急いでタップする


「いけない子だね、職場を変えたと思ったら、他の男となかよくするなんて」


キモイんだよ!デブ!
そうののしりたかったけど、手にナイフを持っていることに気づいて
血の気が引いていく
電話がようやく繋がった!そう思ったんだけど


「松理?俺今いそがしーから後にして」


ガラガラと後ろでなっているのは、パチンコ屋の騒音
嘘でしょ!おそ松のバカ!!
どうにか逃げ出したいけれど、弟たちみたいに喧嘩なんてしたことないし
パンプスで逃げ切れるかどうか不安


「おとなしくしててね、じゃないと、可愛い松理ちゃんの顔が、切り刻まれちゃうよ」


瞬間、来ていたシャツのボタンが飛んで
悲鳴を上げそうになった口元を、素早く男の手がふさいだ
下半身に当てられた、男の下半身にぞっとするけど
頬に当てられたナイフが冷たくて
ぞくりと悪寒が走り抜ける
ガタガタ震える体に、涙が流れ始めて
男はニヤリと笑う


「 姉さん、何かあったときは男のシンボルを、全力で蹴り上げろよ?遠慮はいらんからな 」


2番目の弟の言葉を思い出して
利き足で思いっきり急所を蹴り上げる
うずくまる男を気にもせず、鞄を拾って
全速力で走る
シャツの前を右手で寄席合わせ、片方脱げたパンプスも気にならない

いつも帰り道は、どれかの弟と鉢合わせることも少なくないのに
今日に限って、誰にも会わないなんて
走ってるけれど、もしまた捕まったら?
追いつかれたら?


『(大丈夫、大丈夫、もう少しで家に着くから)』


玄関を引いても、鍵がかかってて開かない
鞄から慌てて鍵を出すけれど、ガチガチと音を鳴らすだけで
一向に鍵穴に入ってくれない
焦るし、涙で視界はぼやけるし
なんでこんな時両親も、兄弟もいないんだ・・・

ようやく鍵が開いて、すぐさま家に入り、鍵を閉める
家中のカーテンを閉める
物置を片付けただけの狭い自分の部屋
扉を勢いよく閉めて、布団を頭からかぶって
部屋の隅に膝を抱えて座る

大丈夫、大丈夫
あいつは、付いてきてない
家もばれてない
大丈夫、大丈夫

本当に?

本当に大丈夫?
音もない空間で、さっきの映像だけがフラッシュバックする
ニタニタ笑う男に、押し付けられた体、鈍く光るナイフの刃

布団をかぶっているのに、ガタガタ震える体をぎゅっと抱きしめるも
効果はない
早く誰でもいいから帰ってきて
そう思っても、こういう時だけなんでみんな帰りが遅いのか
部屋の片隅で、泣きながら弟たちの帰りを待ち続けた


*


1「何だよー!松理のやつ、電話ぐらいでろっつーの。今日は勝ったから弟たち誘ってチビ太んトコでも寄るかなー」





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