BOOK 気まぐれ

□19
1ページ/1ページ

子供姿で2日目
今日の夜には元の姿に戻ると言われ
流石に今日は休めない鬼灯様は、仕事に向かった

私を腕に抱いたまま


「そこで大人しくしていなさい」


昨日からずっと、鬼灯様はお母さんみたいな事をいう
書類をこなし、食事をとり
時に閻魔大王にムチを振るう

そして、夜
残業を粗方片付けてなお
まだ姿は子供のまま
白澤さんは、心配しなくていいよ
なんて言っていたけれど、当事者からすれば
何時何分まで、きっちり時間を教えて欲しいところだ


「さて、そろそろ帰りましょうか」

『はい、あ、ケータイなってますよ鬼灯様』


戻りかけているせいか、口調は子供口調から
普通に話せるようになった
鬼灯様曰く、ほーずきたま も悪くはなかったようだ


「こんな時間にどうしたんですか」

「それが!!白澤様が、誰かに襲われて!店が!!」


その言葉に、背筋が凍る
瞬間に頭をよぎったのは、昨日あった親族の女性
もし、昨日白澤さんの居場所がしれたら
もし、白澤さんと私の関係を知っていたら
もし、標的が私から白澤さんにいったら


『っ!!』


考える間もなく、足は動き
執務室をあとにする
人の姿より、獣姿の方が速いため
誰が見てるかもわからない場所で、迷うことなく獣の姿になる


「凪さん!!」


名を呼ばれ、振り向けば
金棒を握り締めた鬼灯様が立っていて
私も行きます と二人で桃源郷を目指す


「桃太郎さん!!」


桃太郎さんを見つけ、急いで駆け寄れば
白澤さんが、狐に
と指差す方は、森の奥
昼間は明るい桃源郷でも、夜になれば闇に飲まれ
森となれば、なお不気味な雰囲気を放つ


「行きますよ」

『はい、桃太郎さんはここで待っていてください』


走り出そうして、体の異変に気付く
一気に膨れ上がる妖力に
仙桃の気がざわめく
元の姿に戻れる
そう確信し、普通のサイズの狐から、鬼灯様が乗れるほどの大狐になり
鬼灯様を背に載せ、森を走り抜ける


「場所はわかるのですか」

『匂いが残ってます。本当に嫌になるほど知ってる匂いですよ』


はやく、はやく、もっとはやく
足を動かし、木々を避け
匂いが強くなる方へ向かう
風に乗る血の匂いに
最悪の場面を想像するけれど
鬼灯様がいうには、神獣は死なないとの事だ
でも、私のせいでケガをしたりしていないか
痛い思いをしていないか
あの優しい人が、嫌な思いをしていないか


『鬼灯様!』

「はい」


匂いが濃くなり、声も聞こえる距離
すぐの距離に、白澤さんがいるのだと理解する


『白澤さん!』


狐の群れ
人の姿の者も、獣の姿の者
見知った顔
見知らぬ顔
その最奥
赤い血をながし、痛々しく私をみる白澤さん
その姿に
目眩がする程の怒りを覚える


『貴様らぁ!!』


人の姿になり、多くの狐火を放つ
その1つに手を伸ばせば
その炎は形を変え、刀の柄が浮かぶ
それを勢いよく引き抜けば
柄も刃もすべてが黒い刀が現れる

遅いかかる狐を容赦なく斬り捨て
地面に倒れる白澤さんに駆け寄る
泣いちゃダメだ、まだこれからやらなきゃいけないことがあるのに


『白澤さん、大丈夫ですか!白澤さん!!』

「う、ん。だいじょーぶ、##nae1##、ちゃんの方が、泣きそう、だよ」

『こんな時に、人の心配はしなくていいです』

「そ、か」


苦しそうに笑う白澤さんを守るように
同じ血の流れる一族と対峙する
許さない
そう思って刃を握る手に力を込めれば
増す妖力に
逃げ出す狐すらいる


「ひさしぶりだねぇ」

『どうして貴方は、私をそっとしておいてくれないんですかね』

「あんたが、禍の元だからじゃないか?生きているだけで、誰かが不幸になるんだよ」


この男も、さっさとお前の事を教えれば
痛い思いをしなくてもすんだのに
馬鹿な男だよ

嘲笑う言葉
耳障りな声
全部、気持ち悪い

怒りに、我を忘れてはダメ
憎しみに、心を奪われてはダメ
貴方は平和の象徴の血を引いているのだから

そう言ったのは誰だったか
母ではないのは確かだ、私の母は生まれてすぐに死んだ


でも今は

怒りでどうにかなりそう



.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ