BOOK 気まぐれ

□17
1ページ/1ページ

食事をするため、お店に入ったはいいけれど
明らかに、子供の来るようなお店でないうえ
個室に、中庭
品のいい店員に、静かな雰囲気


『ほーずきたま、ここ…』

「そこでお金の心配をするなら、泣かせますよ」


地獄でNO2の人だから、お金は余るほどあるだろうから
今日は素直に、この個室という場所に甘えておく

頼んだ料理が運ばれ
いただきますと箸をとった処で
鬼灯様は口を開いた


「さっきの彼女は、貴方の関係者ですか?」

『とおい、親戚みたいなものですね』


小さい手で、大きな箸は使いにくいけれど
美味しい料理を食べながらする話ではないかもしれないけれど
鬼灯様は譲る気はないらしい


『私が生まれたとき、母と、父と、その家の長が死にました。病気か何かだったきがします。ただあの人の家は一族でも権力が強く、黒狐と関係をもった私の家を良く思ってなかったんです。あとはその辺によくある話で、異端あつかいをされ、まだ子供だった私は一族を追い出されました』

「あの時殺した、と言ってましたが」

『おい出されてすぐ、追手のものに襲われ、背中をケガしました。黒狐の力で死にはしませんでしたけどね』


お汁をぐいと飲み
美味しい食事に、少しだけ機嫌が良くなっていく
もう何百年も前の話だ
それに、大人になった今
あの一族程度の妖力で、何を言っているのかと思うほど
それほどの妖力はない
一族の長でさえ、妖力の大きさを示す数は 4本 


「前にシた時、背中に傷なんてありませんでしたよね」

『ぶっ!あ、あの時は、化けてましたから』


慌てて口元を拭き
向いに座る鬼灯様を見る
じゃあ、また次の時楽しみにしています
なんて言っているが


『次なんてありません』


そんなことよりも
きっとあの人は、何かをしでかすはず
どうなってもいいように、準備だけはしておかないと
それには、まずこの子供の姿を今すぐにでもどうにかしたいものだけれど


『それより、あの人何か仕掛けてくるかもしれないです。ほーずきたまも十分警戒していてください』

「私があの程度に、どうにかされると?」

『一応ですよ。何があるかわかりませんから』


せめて、狐火だけでも出せればな
と指先に力を込める
ぽっ と光がでたと思ったら、マッチの火程度で
これで、どうしろって…


「狐火、ですか」

『はい、あつくはないです。触ってみますか?』


そっと鬼灯様の近くに数個の狐火を出し
黒く青く光るそれに、鬼灯様が触れる
消えることなく、燃え広がる事もない火は
ただそこにゆらゆらと揺れているだけ


『本当はちゃんと熱いんです。でも今は力が少ないから』


ぽんと火を消して、今度はちゃんとした狐火を見てほしいな
そう思うけれど
鬼として地獄にいる以上、そんな簡単に見せることはできない


「今の凪さんは子供ですから、しょうがないですね」


食事を終え
このあとどうしようか考えた結果
白澤さんに文句を言いに行こうという事になり
桃源郷を目指す
食後の運動と言わんばかりに
少しだけ早めに歩く
鬼灯はその2歩ほど後ろを、非常にゆっくりと歩いていく


「(揺れるしっぽ…ぐうかわ)」


なんて、無表情のしたで
萌えながら、しっぽを左右に揺らしながら歩く凪さんを見つめる
極楽満月が見えてきたあたりで
歩く速度を上げ
ドアノブに手をかけようとして


「くそが!」


と暴言を吐く女性の声と
勢いよくあく扉に、反応の鈍い子供の体では避けることができず
ゴツン といい音を立てて額にドアが直撃した


「そんな所にいるのが悪いのよ!」


機嫌の悪い女性は、謝ることもなく去っていき
両手を額にあて、痛みに耐える


「随分いい音でしたね、おでこ、大丈夫ですか?」

『ほーずきたま、い、痛い、です』


自分の情けない声に
皮膚の柔らかい子供の体、大人の時にはこれくらい平気だろうけど
今の子供の体では、非常に痛い
大声を上げて泣かないだけ、まだマシな気がするが
視界は、涙でどんどんぼやけていく


「手をどけなさい」


ゆるゆると手をどけ
額を晒せば、そこは赤く腫れており
木でできた扉だからなのか、擦り傷もできていて
血がうっすらと滲んでいる

袖で、ぐいと涙を拭ってなお
涙は止まらず、ひっくひっく と喉がヒクつく


「こんにちは!さようなら!!」


開いたドアから、室内に向かって黒い金棒をブン投げる鬼灯様
狙いが定まったのか、カエルの潰れたような声が聞こえて
鬼灯様の後に続いて、部屋の中に入る


「白豚!貴方のせいで、凪さんがケガしたんです!傷が残りでもしたら、すり潰しますよ」


気を失う白澤さんに声をかけるも
話など聞いているわけもなく
とりあえず、桃太郎さんが慌てて手当の準備と
お茶の準備をするのがみえた


苦労、してるんだな…


.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ