BOOK 気まぐれ

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暗闇の中
ほんのり照らされる光に導かれるように意識が浮上する
目を覚まさなくちゃいけないのか
また日常に戻らなくちゃいけないのか


『(できれば、このまま眠ってしまいたいな)』


甘えた事を言っている自覚はあるし
それを許さない上司がいることも知っている
しょうがない目を覚まさなくちゃ

見えてくる景色に
確か桃の木の幹に体を預けたところまでの記憶を繋ぎ
地獄までの道のりを考えれば
やっぱり起きたくないなぁ


『あ、れ?』


目を開ければ、見えるのはどこかの天井
桃の木はなく、むしろ森の中ですらない
どこだろう?
と思う間もなく吸い込んだ息に、薬草の香りがふんわりと香り

極楽満月

と答えを導き出した
白澤さんに怒られるなぁ
なんてのんびり考えをまとめ
痛むからだを起こす
丁寧に傷の手当はされていて
少しだけ体が熱い

時計を見れば
まだ朝の5時で
きっと白澤さんはもちろん、新しい助手の人も起きていないだろう
見覚えのある室内は、白澤さんの部屋で
ドアを開けば、そこにはお店へ、そして外に出るためのドアが続く


『へ?なんでここに・・・』


ドアを開けば、テーブルに突っ伏して眠る
白澤さん 鬼灯様 あと多分助手の人
ぐっすり眠っているのか、ドアの音でさえ起きない

空いているイスに腰掛け
テーブルの上に置かれた本に手を伸ばし
中身を確認する

ここにある本はほとんどが、薬草関係か医療関係
たまに白澤さんのエロ本が発掘されるが
その本は鬼に対する薬の本だった

何が効くとか、何が効きにくい
鬼にだけでる副作用なんかが細かく書かれていて
その字は、白澤さんのものだ


「ん・・・?あぁ、起きてたんですね」

『おはようございます』

「おはようございます、気分は大丈夫ですか?」

『平気みたい、なんだか迷惑をかけちゃいましたね』

「気にしないでください。今お水持ってきます」


助手が台所に消え、しん と静まり返る店内
水と薬を持ってきた助手の人、名前は桃太郎さんというらしい
苦い薬を水で流し込めば


「心配かけさせた罰で、すごく苦い薬らしいです」

『…うん、とっても苦い…』


飲み終えた水をテーブルにそっと置き
桃太郎さんは白澤さんに声をかけ、その体をゆすり起こす
目が開いたと思えば、ガバリと急に体が起き上がり
そのまま鋭い視線がこっちを見る


「凪ちゃん、僕結構怒ってるんだけど」

『あの、これにはワケがありまして…』

「どんな理由があるか、これからじっくり聞くとして、腕だして」


白澤さんの剣幕に、さっと自分の腕をだし
袖をめくられ、貼られたガーゼがそっと剥がされる


「薬が効いてない…」


そこには、傷口が痛々しくあり
そっと触れる指先に、痛みが走る


「また、隠し事かな」


再度鋭い視線を向けられ、距離をとろうにも
腕は白澤さんに掴まれたまま
テーブルのこっちと向こう
目線を合わせずに、どう説明しようか心の内で考えてみるけれど
いい考えは、これっぽちも出てこない
これは、久しぶりにマズイ気がする

3階の資料室から、落とされるよりも
目の前の白澤さんの方がヤバイ


「朝からうるさいですよ、白豚」

「寝過ぎなんだよ、朴念仁」


いや、アンタもさっきまで寝てただろう
なんてツッコミを入れる余裕はなく
覚醒する鬼灯様とゆっくりと視線があっていく


「凪さん」

『ひっ!』


今まで見たこともない、般若を超えるほどの恐ろしい顔で睨まれ
蛇に睨まれた蛙
しかも、その蛇はタチが悪くずる賢い
しかも 2体

そっと伸ばされる手に、ぎゅっと目を閉じ何をされるかわからない恐怖に耐える


「熱は、まだ高いですね」

「これ、脇にはさんで」


首筋から、鎖骨をなでその熱に眉間にシワを寄せる鬼灯様に
体温計を渡す白澤さん
少しの沈黙の後、体温計が示す数字が
今まで見たこともなくて、驚きに固まっていると
白澤さんにソレを奪われ
確認した後、鬼灯様の手に渡る


「まぁそこそこ熱は下がりましたね」

「山は超えたって感じかな」


二人の言葉に、さらに驚いていれば


「説明なさい」

「そうだね、それは僕も賛成」


タイミングよく運ばれたお茶に手を伸ばし
桃太郎さんが椅子に座れば
3対1 のこの状況


やっぱり起きなきゃよかった


.

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