BOOK 気まぐれ

□12.5
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「白さん、何してるんです?」

「あ、鬼灯様こんにちは!鬼灯様に書類の配達です!」

「わざわざありがとうございます」


他の部署から戻ってくれば
白さんがデスクの机のまわりをくるくると回っていて
こちらに気付いて、要件を簡潔に述べる
ただ
その書類、確かこれは、凪さんに任せていた書類で
なぜ、その書類を白さんが運んで来たのか


「この書類をどこで?」

「あぁ、それね。窓から落ちてきたお姉さんが、鬼灯様にって」

「っ!窓から落ちたって、どこのです!?」

「落ちたというか、落されたというか……あ、でもこれ内緒だから、誰にも言っちゃダメなんだって、だから鬼灯様内緒にしてね」

「ちっ!それで、その女性はどこへ?」

「医務室に一人で行けるって言ってたよ」


今日中に片さなければいけない書類を最速で片していく
こんな仕事貯めやがって、あの髭!あとでシメる!!
数時間後、ようやく書類が終わり
足早に医務室を目指す
廊下にいる獄卒達が、慌てて道を開けてくれたおかげで
何の障害もなく、最短で医務室まで来れたはいいが


「やはり、来ていませんか」


その部屋は担当医以外、誰もいない
誰かがきた記録もない
明日は凪さんは休みで、この書類を受け取ったら
今日の分の仕事はすべて終わり
それを見越して、凪さんは白さんに書類を頼んだか
チッ と舌打ちをして
彼女の行きそうな場所を探す
金魚草の見渡せる中庭も、図書室も
自室も、心当たりはすべて見たけれど
どこにも姿はない


「まさか、あいつの所へ…」


急いで地獄と天界のはざまに行き
二人の門番に声をかけたら
女が一人天界に行ったと聞いた
もう日が落ち暗い道を、気配を探りながら歩き
かすかな明かりを見つけ
声をかけるなんて、生ぬるいことはせず
勢いのまま、そのドアに金棒をたたき込んだ


「なっ!鬼灯様!!」

「桃太郎さん!ここに女性は来ませんでしたか?」

「え?女性なら、白澤様と一緒ですけど…」

「はい!!失礼します!!」


遠慮などなく、白豚の部屋のドアを破壊しながら入れば
驚く白豚と、金髪の裸の女性
きゃっと、シーツを胸元まで引き上げる彼女をよそに
白豚は、眠たげに頭をかく


「終わったあとだからいいけど、最中だったらど…」

「凪さんは来ていませんか!?」

「はぁ?凪ちゃんは来てないけど」

「ちっ!」


ここじゃない!ならどこだ!
いないのなら用はないと、来た道を戻ろうとして
後ろから声がかかる


「凪ちゃんに何したんだ」


普段からは想像できないほどの低い声に
一緒にいる女性すら、息をのむ
桃太郎さんも、わたわた慌て出す


「怪我をしているはずです。なのにどこにも姿がありません。ここに来ていると踏んでたんですが、無駄脚でした」

「早く言えよ!そういう事は!」


慌ててベットから飛び出す白澤さんは
身なりを整えだす
白澤さんの身支度を待つほどの余裕などなく
すぐさま、壊れたドアから外に出ようと足を踏み出すが

きゅうに背筋にゾクリと悪寒が走った
振り向けば、白豚の周りだけ雰囲気が代わる
額の赤い眼が、色濃く発色し
普段からは想像もできないほどの、真剣な表情で
どこか遠くを見つめる


「あぁ、だいぶ弱ってるね。でも見つけた」


神獣と呼ぶにふさわしいオーラを放ち
ゆったりと外に出る白豚
ゆるく体の輪郭が代わり、ふわりと浮き上がる白い毛並み
体にいくつもの目と角を持つ
こちらを振り返り
乗れ と合図を受け、背中に飛び乗れば
なんの言葉もなくその体はまっすぐと走り出す

速度が落ち
そっと白澤さんの足が地面に触れ
その体から飛び降りれば
木に体を預けるように寝ている凪さんの姿を見つけて
呼吸に合わせて動く体に、正直ほっとした


「あんまり動かすなよ」

「わかっていますよ」


そっと抱き上げれば、触れる手に体温の高さが伝わる
多分、傷が原因での発熱
白澤さんの背に乗り、落ちないよう、落とさぬように抱きしめれば
来る時より、少しだけ落ちた速度
体の傷を気にしているのがわかる


「お帰りなさい、さっきの女性には帰っていただきました。あと、数羽のウサギたちが手伝ってくれるそうです」


少ない時間しか共にしていないけれど
桃太郎はよく働くし、気が利くのはわかる
ベテランのウサギたちも、白澤さんの指示を待つように
じっとこちらを見ている


「さぁ、とにかく手当から始めようか。お前も手伝えよ。原因はどう考えてもお前なんだから」

「言われずとも、わかっています」



どうして貴方は
私の眼の届く範囲にいないのでしょうね

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