BOOK 気まぐれ

□12
1ページ/1ページ

鬼灯様の期限付きのお手伝いを始めて
残り半分
まぁ何というか、やっぱりと言うか


「調子に乗るな」


女性獄卒2名、男性獄卒2名
計4名が目の前に壁を作っている
こちとら暇じゃない、早く帰らないと鬼灯様に何を言われ
何をされるか分からない


「もう辞めれば?」

「そうそう、仕事だってどうせ誰かにやらせてるんでしょ?」


誰かがやってくれるなら、やらせたいところだ
全部、しっかり、鬼灯様に怒られ、怒鳴られ、いじられながら
必死でやってるのに

閻魔殿の最上階は、もう使わないような資料を管理する場所で
高さで言うならビル4階分程度
ぶーぶーと文句を言うだけならまだしも
窓際に追い込まれ
突き落とす勢いで迫ってくる
もうすでに男の獄卒には数回殴られ
女の獄卒には数えきれないほど蹴られた


「逃げたいなら、そこから逃げれば?」

「窓なら開いてるしね」


窓から下を見れば、結構な高さがある
死にはしないだろうけど
受け身を取ったとしても、痛いよなぁ
じわじわと詰め寄る4人
もう腕を伸ばせば触れてしまうほどの距離まで来て
女に再度蹴られた
そのまま男が着物の首元をつかみ
窓枠に腰を掛ける位置まで持ち上げられ

4人の笑う顔と共に
体は後ろへと倒れる


『いったぁ……』


空中で体を回し、衝撃をなるべく逃がしたけれど
体は確実にダメージを受けていて
しばらく倒れたまま、起き上がることさえできなかった

上から ざまぁ 見たいな声と笑う声が聞こえて
遠ざかっていき
私は詰めていた息を吐いた


「大丈夫?」


目を開ければ、真っ白のふわふわがいて
それが犬だと気づき、動物だけの地獄を思い出す
そこの獄卒か


「落されるの見たよ!誰か呼んでくるから!」

『あぁ、大丈夫、体もちゃんと動く』

「でも!鬼灯様に知らせないと!」


なんだこの犬は、鬼灯様の犬か?
走ろうとする白い犬の首飾りを引き
犬の行く手を阻む


『大丈夫だから、これ鬼灯様に渡してくれる?これ渡したら仕事終わるんだ』

「医務室の場所知ってる?一人で行ける?」

『大丈夫、一人でちゃんと行くよ。だからこれお願いね』


落ちてなお、必死で守りぬいたものだ
ちゃんと鬼灯様に渡さないと


『落されたことは内緒だよ』

「わかった!」


任せられるかどうか分からないけれど
とりあえず、どうしよう
医務室行って、さっきの奴らが待ってる可能性もある
幸い、明日は休みだ


『白澤さん…』


漢方の名医だし、いつでも帰って来ていいって
言ってたよね
足も痛めたせいか、しっかり歩けなくて
よろよろしながらも地獄と天界の挟間まで来る
定時を過ぎ、夜の時間帯
じくじく痛みだすのを我慢して
老人よりも遅い歩で
やっと極楽満月に辿りついた


『やっと…ついた………』


オレンジの優しい明かりに
ほっとする
あの優しい大きな手を思い出す

ドアに手を伸ばし、そっと力を入れようとして


「桃タローくん、片付けよろしくねー」

「白澤さまぁ〜はやくぅ〜〜」

「はいはい、やっておきますから、早く部屋でもどこでも行ってください」

「謝謝」


白澤さんと、男性の声
そういえば、白澤さんの所に助手が一人入ったって
鬼灯様言ってたっけ
それに、甘い声の女の人

ドアノブから手を放し
2、3歩下がる
ここに、私は、いていい、んだろうか
答えはNOだ
ここには、もう私の居場所はない
ならどこに帰る?
地獄は、流石に帰れないし
唯一の頼みの綱の白澤さんのところも
私の帰る場所じゃないみたいだ

なら私はどこへ?


とりあえず、極楽満月から離れ
桃の木の群れの奥まで行き
ここなら誰にも見つからないだろうと思って
木に体を預ける
足も腕もおなかも、背中も
どこもかしこもが痛い

でも

心は
もっと痛い


.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ