BOOK 気まぐれ

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「凪、これ鬼灯様に直接手渡しで渡してきて」


書類の束が、渡され
そのまま昼を外で食って来いと言われた
𠮟咤を専門としてる凪には
書類整理専門の獄卒が就いてくれてて
実質、二人でこの地獄を切り盛りしている
週休2日、休みの日はもちろん他の地獄から人手を借りているが
まぁどうにか回っている

そして今日は午前は𠮟咤、午後はなぜか書類配達を仰せつかった
なんで?
いつもは、他の人が書類を取りに来てくれるのに
頭に?マークを浮かべながら、遠い閻魔殿を目指す

ちなみに今日の服装は
膝上丈の浴衣
白字に赤のグラデーション
裾と袖はふわりと揺れるような、形状のうえ、レースがふんだんに使われている
最後に赤い帯に、淡いピンクの兵児帯を巻く


『書類の配達に来ました』

「どうぞ」


重い扉を開け、視線を向けたのは
先日美味しく頂かれた、第一補佐官の鬼灯様
その涼しい顔を見たら、首筋が痛みを思い出した


『確認お願いします』

「今日はずい分ひらひらですね。金魚草みたいです」

『まさしく、今日のテーマは金魚ですよ』


一定距離を保ったまま、鬼灯様に返事をすれば
書類に目を通しながら、右手が手招く
嫌な予感がする
そう思いながらも、右足は素直に1歩鬼灯様に近づいた

人を呼んでおいて、何の話もせず
ただ横に立っているだけ
壁にかかっている時計を見れば、もうそろそろお昼の時間だ
せっかく衆合地獄から外に出たのだから
何か美味しいものでも食べて帰ろう
と、仕事以外の事を考えていたら
急に視界が回って
優しく背中に触れたのは、さっきまで鬼灯様が仕事をしていた机
そして見えるのは、鬼灯様の顔と、天井


「油断大敵ですよ」

『まさか、鬼灯様が仕事中にこんな事するとは思ってなかったので』


鬼灯様の手は、足を膝からゆっくりとふととももに上がる
そして、お腹を通り、胸をふんわりと越え
浴衣の合わせに辿りついた

少しだけ開かれた合わせに
心臓はバクバクと大合唱を奏でているのに
指先1本動かない


「まだ、跡が残ってますね」


首筋に赤く残る跡
事情特有のかわいらしい跡ではなく
ところどころ青く、紫に変色しているそれは
どう見ても

噛み跡


『まだ痛むくらいですから』

「あれだけ強く噛んだんです。簡単に消えてもらっては意味がない」


変色した跡に、そっと唇が降ってくる
噛まれる そう勘違いした体は、一瞬ビクリと揺れ
次にくる痛みに備える


「今日は噛みませんよ」


ほっとしたのもつかの間
ぬるりと肌を這う感覚に、背筋が震えた
抵抗しようにも、うまい具合に抑え込まれ
足の間に体をねじ込まれ、足技も使えず
ぬるぬると好き勝手に動き回るそれを、止める術がない


『ほ、鬼灯様!』

「静かになさい」


クスリと笑う音がして
ただひたすらに黙ったまま、その感覚をやり過ごす
舐められ、時々、軽く歯を立てられ
その度にピクリと動く体が恨めしい
自分ではどうにも出来ない感覚に
羞恥心が膨らみ、顔に熱が集まっていく


「そそりますね。その表情」

『うぁっ』


言葉とともに、鎖骨を軽く噛まれ
鬼灯様は離れた
倒れた上半身を起こし、デスクからおりようとした処で
鬼灯様の腕が、私を囲う様に両デスクの端に置かれ
見上げれば、色の強い目が私を見下ろしている

あぁ、デジャヴ
あの日、鬼灯様の部屋で、見慣れぬ天井に写り込んだ顔も
こんな表情だった


「イタズラが過ぎましたね。お詫びにお昼でもご馳走します」

『いえ、結構です』

「ほぅ、今の状況を冷静に判断して、お返事して頂きたいですね」

『ご、ご一緒させていただきます』


よろしい
やっと囲う両手がなくなって
足が地面に着いた
襟元の乱れなんかを直しながら
つぶれてしまった帯を確認

そっと伸ばされた手に、何の疑問も抱かずに手を重ねれば
すぐさま指と指の間に
自分とは違う、太くしっかりした指が組まれる

慌てて手を振って、放そうとしても
私が鬼灯様の手を振り回しているように見えて
なんだか恥ずかしくてやめた


「何が食べたいですか」

『美味しいお蕎麦がいいです。天ぷらもつけてください』

「茶碗蒸しもおまけします」


きゅっと握られた指に、鬼灯様の熱が移る
その熱が、早くなくなればいいと思いながも
振りほどけなくて、困った



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